帰宅困難者の一時滞在施設として、多様な人々に対応する備蓄食を考える

フクダ・アンド・パートナーズ×防災に取り組む在仙外国人のみなさん

▲(左から)株式会社 フクダ・アンド・パートナーズ/加藤 祐さん、阿部 真美さん
防災に取り組む在仙外国人のみなさん/フィラさん、ホアさん、バワニさん

モリノカレッジは、みんなのつながりの
輪を広げるプラットフォーム。
互いの価値観やアイデアがクロスしたら、
どのような効果が生まれるのでしょうか?
クロストークをヒントに、あなたの活動の
可能性をぜひ、広げてみてください。

社会インフラである物流施設づくりを全国で行っている株式会社 フクダ・アンド・パートナーズ(以下、F&P)。
同社は、東日本大震災の際、72もの物流センターの復旧に取り組みました。震災時の経験と、地域の人々の生活を守り、支えたいという想いから開発した、防災型リバーシブルビル「仙台長町未来共創センター」は、災害時の一時滞在場所に指定されています。

仙台市では外国人住民の人口が増加しており、令和6年4月末には16,000人を超えました。外国人住民の中には日本語が不自由な人たちや防災の仕組みを知らない人たちも多く、災害時のサポートが必要になります。仙台市の「仙台市災害時言語ボランティア」や公益財団法人 仙台観光国際協会(以下、SenTIA)の「せんだい外国人防災リーダー」は、外国人登録者も多いボランティア制度です。
今回は、F&Pの仙台長町未来共創センター センター長 加藤 祐さんと主任 阿部 真美さん、「仙台市災害時言語ボランティア」に登録しているインドネシア人のDhita Larci De Fila(ディタ・ラルチ・デ・フィラ)さん、ベトナム人のLAI THI HOA(ライ・ティ・ホア)さん、ネパール人のDuwadi Bhawani(ドゥワディ・バワニ)さんと「多文化から考える備蓄食」をテーマにクロストークを行いました。

それぞれの防災・減災に関する想いとは?

仙台長町未来共創センターを開発された想い、防災機能を特化した理由を教えてください。

加藤弊社は、物流施設づくりを行っている会社で、私は仙台長町未来共創センターのセンター長をしています。ご縁があって弊社がこの土地を購入し、保有しておりましたが「地域のためになるような機能を持つ建物を建設したい」という我が社の想いから、平時は人や企業と共に未来を創る場として、非常時は地域の人々の生活を守る地域密着の防災施設として、平時と非常時で機能が変わる 「リバーシブルビル」を企画設計し、2022年4月に開所しました。

阿部私は仙台長町未来共創センターの運営などを担当しています。また、加藤とともに防災についての知見を深めて本施設の運営に活かすため、東北大学災害科学国際研究所で学んでいます。なお、本施設は、平常時には再エネ100%電力をテナントに供給し、さらに太陽光発電による電力を活用するなど、環境にも配慮した、脱炭素社会に貢献する施設です。

一方、非常時は地域防災施設になります。開発にあたっては、東北大学災害科学国際研究所との企業防災・地域防災・BCPに関する共同研究の知見を活かし、非常用発電機や蓄電池、さらには電気自動車や水素自動車から本施設に電力を供給できる設備を実装することにより72時間電気が消えないことを実現しました。また、帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設として仙台市と協定を結んでいます。

自社だけではなく、地域企業も加わり「産・学・官」の取り組みが続くことで、本施設がSDGsの目指す持続可能な社会の実現に寄与し続けることを目標にしています。

仙台市災害時言語ボランティアやせんだい外国人防災リーダーに登録された理由を教えてください。

バワニ私はネパールから日本に来て17年になります。東日本大震災がきっかけで、「仙台市災害時言語ボランティア」の他に「せんだい外国人防災リーダー」にも登録しています。
「仙台市災害時言語ボランティア」は日本語での情報を得にくい人たちを言語の面でサポートし、「せんだい外国人防災リーダー」は、平常時には地域防災の担い手として、地域の人々と共に防災活動について学び、災害時は地域と外国人を通訳や情報発信で繋いでいます。

ネパールは雪崩や大雨の災害はありますが、地震はあまりなく、震災時はどうしていいか分からず、避難所のことも知りませんでした。子どもが小学生でしたので、迎えに行った時に学校に泊めてもらい、そのまま避難することになりました。そこで感動的だったのが、みなさんがお互いに助け合う姿でした。

その後、仙台にも外国人の方が増えてきて、自分ができることは何かなと思った時に、ボランティアを知り、活動を始めました。

フィラ私はインドネシア出身で、仙台に東北大学の留学生として来て1年くらいです。「仙台市災害言語ボランティア」に登録しています。仙台に来る前は、交換留学生として島根県に1年くらい、東京都にインターシップで半年くらい、都度帰国していますが、日本での生活は2年半くらいになります。SenTIAでのせんだい留学生交流委員に参加する中で、ミーティングで仙台市災害時言語ボランティアの存在を知りました。登録したきっかけは、インドネシアが日本と同じくらい災害が多いのと、1月に起きた能登半島地震でした。

能登半島地震が発生した時、旅行で長野県の松本駅から東京に行こうとしていました。電車がすべて止まってしまい、駅員さんが難しい日本語でホワイトボードにお知らせを書いていたのですが、簡単な日本語しか分からない外国人には難しい内容でした。その時、中国人の方がボードに中国語の訳を書くお手伝いをしていて、「ああ、これなら私もできる」と思い、インドネシア語を書き足しました。他にも英語やベトナム語がボードに書かれて、みんな自分の国の人を助けようしていました。それがきっかけで、「仙台市災害時言語ボランティア」に登録しました。

ホア私はベトナムから日本にきて10年目で、現在はフィラさんと同じ東北大学の留学生です。仙台に来る前は千葉県に住んでいたのですが、人々との交流がベトナム人のコミュニティだけに限られていたので、仙台ではもっと色々な国の人との交流や、地域のイベントに関わりたいと思い、同じ研究室のシリア出身の先輩から紹介してもらったSenTIAの交流委員に参加しました。大学では建築を学んでいて、耐震など防災についても関心が高いので、「仙台市災害時言語ボランティア」にも登録しています。

備蓄食体験へ

備蓄食のこだわりや課題を教えてください。

加藤備蓄食は色々な種類があるので、まずはおいしいものを選ぶようにしています。避難が長くなればなるほど、もっとおいしいものや温かいものが食べたくなる傾向があると避難経験者から伺いました。できるだけ飽きのこないように、バリエーションを豊富にすることも意識し、社員が実際に試食を行ってから購入しています。

災害状況や電車の復旧状況によって変わりますが、帰宅困難者の一時滞在は基本的に3日間を想定しているため、その間宿泊できるように準備しています。朝昼晩の3食に加え羊羹やお菓子、飲み物も保存水以外に野菜ジュースなどもそろえています。

阿部F&Pの本社は東京ですが、首都圏等で災害が起きた際に社員を守るための目的でも備蓄しています。そのため、備蓄量としては、社員数約200人分×3日分を用意していましたが、首都県直下型地震の発生確率の高まりなどもあり、最近は6日分まで増やしました。

備蓄食は、首都圏等が被災した場合は被災地域の社員の備蓄として、仙台が被災した場合は本施設が受け入れる帰宅困難者のために用意しています。賞味期限がありますので、3年から5年と長期のものを選定していますが、本施設の開所から2年半が過ぎ、入れ替え時期が来ています。

フードバンクへの寄付も予定していますが、今回のような試食会による感想も次の備蓄食購入の参考にさせていただきたいと思っています。外国の方はもちろん、高齢者や乳幼児にも対応できるように、備蓄食の幅を広げていけたらと考えています。

日本の備蓄食を食べたことはありますか?また、自宅で備蓄をしていますか?

バワニ私は東日本大震災の避難所で配られたワカメご飯がすごくおいしくて、今でも印象に残っています。ネパールでは、昔から大根や豆などを干して、保存食として食べる文化がありますので、自宅でも豆類などをたくさん買ってストックしたり、普段食べているものを多めに買ったり、ローリングストックをしています。

フィラ私は備蓄食という言葉を今日初めて知りました。非常時のものとか、携帯トイレは知っていましたが、最初、何かのブランドだと思っていました(笑)。備蓄食は食べたことはありませんが、毎日飲んでいる野菜ジュースがここの施設に備蓄してあったので、安心しました。家では、お水などの飲み物を4本くらい置いています。

インドネシアでは、あまり防災という考え方はありません。日本は、自分の命を守ろうという防災訓練があるので、自分の国でも取り入れてほしいですね。東日本大震災の3年前にインドネシアで大きな地震があり、私の地元では水も電気も止まりました。トイレも含めて、水がないのがとにかく大変で、避難所もありませんでした。生のインスタントラーメンをそのまま食べて、1週間くらいラジオを聴きながら自宅で助けを待ちました。

ホア私は五穀米の備蓄食を食べたことがあります。長期保存のものと、普通のものと何が違うのか、食べ比べたことがないので、違いは分かりませんがおいしかったです。ベトナムも避難所や防災訓練など、日常的に備える文化があまりないですね。今、2人部屋で多めに食料などを買っているので、備蓄はしていませんが、万が一の時に使えるインスタントラーメンは置いています。フィラさんの話を聞いて、水がないと大変なのは考えていなかったです。

宗教上で食べられないものはありますか?

バワニネパールは、ヒンドゥー教が主流ですが、様々な宗教の方がいます。主に牛肉と豚肉は食べません。魚は食べますが、海に面していないため頻繁ではなく、ヤギ肉を食べる文化があります。

フィラ私はイスラム教なので、食べられないものが結構多いと思います。豚肉は絶対に食べませんし、お酒もダメです。醤油や味噌、みりんなどの発酵食品は、発酵している時にアルコールが生成されるので、食べません。牛肉や鶏肉などは、お祈りをしながら食肉にする処理をしたもの、いわゆるハラール食品なら食べられますが、私個人は避けるようにしています。最近、アルコールを含まないハラール醤油が売っているので、それは使っています。あと、魚介類は食べられます。

ホア日本で災害が起きて、食べられるものがない場合はどうするのですか?

フィラ非常事態で命に関わる状態の時は許されます。個人によってそれぞれですが、最後まで食べない方もいると思います。

バワニネパールでもイスラム教の方がいるので、ハラールやハラームに関して聞いたことがあります。

フィラ細かくなるので、詳しくは説明しませんが、ハラールは許されている物事、ハラームは禁じられた物事で、食事だけではなく、生活全般の物事に対して判断する時に使う言葉です。
食べられるものか判断する時に、ハラールかハラームか判断するアプリがあるのでよく使っています。商品のバーコードをスキャンすれば分かるので、とても便利です。

ホアベトナムでは、多くの人は民間信仰か無宗教で、アレルギーがなければ基本的になんでも食べられます。私自身も、なんでも食べられます。

では、F&Pさんで用意頂いた備蓄食を試食してみましょう。

フィラ私は食べられないものが多いけど・・・、パンの缶詰や野菜のスープは大丈夫そう。このアルファ米には、ハラール認証のマークがついていますね!

食べられると思ったけれど、野菜のスープは、成分を確認したら豚肉エキスが入っていたので食べられません。

バワニ私は牛肉が食べられないので、牛丼の缶詰はダメ。

ホア私はなんでも食べられるけど・・・、じゃあ皆食べられる、この塩さば丼の缶詰を開けてみましょうか?

備蓄食で一番おいしかったのは何でしたか?

バワニパンですね。香りもよく、お店で買ったそのものを食べているみたいです。

フィラ私もパンがおいしかったです。缶詰に入った塩さば丼も、開けてすぐに食べられるのでびっくりしました。温かくなくても気にならないですね。私は災害の経験があるので、味が美味しいだけでうれしいです。

ホアカレーがすごくおいしかったです。災害の時は、おいしいものが食べられなくてもしょうがないと思っていましたので、備蓄食がこんなにおいしいなんてうれしいです。

備蓄倉庫の見学へ

阿部倉庫には備蓄食以外にも、マスクや携帯トイレ、衣類や歯ブラシセットなどの生活用品の備蓄もあります。アイコンで分かりやすく整理し、取り出しやすいよう工夫しています。

バワニ備蓄食といえばアルファ米や羊羹しか思いつかなかったのですが、うどんなど色々な種類があってびっくりしました。

フィラスープやおにぎりなど、すぐに食べられるものがあって、ガスコンロもあるのでお湯も用意できますし、衣類や歯ブラシセットもありますね。私は日本語教師をしていたことがあり、日本で働く予定の人たちに日本語を教えていました。その際、日本の文化はもちろん、災害や防災も伝えた方がいいと思って、防災訓練や備蓄食などの動画を探したことがありました。備蓄食には色々な種類があることは知っていましたが、実際に目の前で実物を見たらすごいと思いました。

ホア備蓄品のバリエーションが多く、3日間の生活が続けられるものが全部そろっているのが分かりました。帰宅困難者がここに泊まったら、安心感のある避難ができると思います。

今回のクロストークの感想をお願いします。

阿部本日はありがとうございました。開設当初は、私たち自身を想定して備蓄品を購入していたため、今回、みなさんの話を聞けて参考になりました。パッケージを見て食べられるかどうか判断されているのを見て、私が思った以上に、食べられないものが多いと感じました。ハラール認証マークを意識して取り入れたいと思いました。

本施設は帰宅困難者の一時滞在場所なので、出張や旅行で遠方から来た方が多くなると想定はしていますが、実際は誰が来るか分かりません。年齢も含めて、幅広い方に対応できるような備蓄品もそうですし、例えば宗教によるお祈りの場所の確保など、避難所の運営自体も幅を広げていく必要があると感じました。

バワニ備蓄食がこんなに進化しているのは全然知らなかったので、これだったら自宅でもできるなと参考になりました。ありがとうございました。

フィラ新しいことを色々と知って勉強になりました。これから仙台にもイスラム教の人が増えていくと思います。イスラム教の複雑なハラールについて知ろうとしてくださり、とても感謝しています。

ホア今まで備蓄について心配していなかったのですが、フィラさんの水が大変だったという災害体験を聞いて、水を備蓄しようと思いました。私は、宗教的な制限が無いので、何でも食べられます。備蓄食は、日持ちとか持ち運びのしやすさだけではなく、味や種類も色々と考えられていることを知りました。そういう中で、備蓄食の種類は、その人にとって何が大事なのかを考えて備えておくべきことを学びました。ありがとうございました。

株式会社フクダ・アンド・パートナーズ

物流施設に特化した設計・監修・プロジェクトマネジメントを全国で行う会社。自社で企画・開発した「仙台長町未来共創センター」は、「平常時と非常時で機能が変わるリバーシブルビル」をコンセプトに産官学連携の取り組みを行い、平常時は人を育て企業間でイノベーションを生み出す施設、非常時は人を守る地域密着の防災施設となっています。
活動紹介はこちら

公益財団法人仙台観光国際協会 国際化事業部

言葉や習慣などの異なる外国人市民が、地域の一員として安心・安全に暮らせる多文化共生の地域づくりに取り組んでいます。「仙台市災害時言語ボランティア」の運営や「せんだい外国人防災リーダー」事業を行い、大規模災害が発生時には「仙台市災害多言語支援センター」の運営を行います。
活動紹介はこちら