「自分で考え、発見する」。そのプロセスを大切に、防災学習を展開。

株式会社MCラボ×一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワーク

▲(左から)株式会社MCラボ/代表取締役 阿部 清人さん 一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワーク 代表理事 上島 洋さん

モリノカレッジは、みんなのつながりの
輪を広げるプラットフォーム。
互いの価値観やアイデアがクロスしたら、
どのような効果が生まれるのでしょうか?
クロストークをヒントに、あなたの活動の
可能性をぜひ、広げてみてください。

「株式会社MCラボ」は、「科学」「防災」「環境」をテーマに、全国各地で楽しい科学実験による講演・セミナーを行っています。
一方、「一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワーク」は、段ボール製のジオラマキットを活用したワークショプ型の防災学習プログラムを全国で展開しています。
MCラボの代表取締役阿部清人さんと、防災ジオラマ推進ネットワーク代表理事の上島洋さんで、クロストークを行いました。

防災を身近に楽しく学ぶことで「自分ごと化」を。

現在の活動内容を教えてください。

阿部身近なものを使って科学実験をするサイエンスショーを23年ほどやっています。防災の要素とサイエンスショーを組み合わせた「防災エンスショー」も展開し、親子で楽しく防災を学べるコンテンツづくりにも取り組んでいて、毎年開催している仙台防災未来フォーラムでも披露しています。

上島学校や地域のイベントなどで、段ボール製のジオラマキットを使用して防災を学ぶワークショップをしています。防災教育の一環で、仙台市内の小学校でも段ボールジオラマ授業を展開しています。段ボールには、参加者の住んでいるエリアの地図が印刷されていて、等高線(地形図上で、同じ高さを結んだ線)に沿って切り抜かれています。それを自分たちで組み立てることで、高低差を体感で覚え、かつ自分でつくったものには興味が湧くので、自発的に色々な関心を持ってもらえるようにしています。

現在の活動を始めたきっかけを教えてください。

阿部私は「fmいずみ」のアナウンサーをしていたのですが、アナウンサーを目指したきっかけは、1978年の宮城県沖地震でした。当時は中学3年生だったのですが、電気やガス、水道などのライフラインが止まり、自宅では家族でロウソクの明かりひとつでラジオを囲んで情報を入手していました。その時のアナウンサーの声に非常に励まされ、アナウンサーになりました。

「ラジオはあなたのライフライン」をテーマに、ラジオ各局で防災キャンペーンをしたことがあるのですが、防災のことをしっかりと伝えるためにもっと勉強しておこうと、2008年に防災士の資格を取得しました。そこで、もともと行っていたサイエンスショーに防災の要素を取り入れた「防災エンスショー」を始めましたが、防災というのは難しい、怖いというイメージを持っていらっしゃる方が多く、東日本大震災の前はあまり関心を持っていただけませんでした。

本格的にご依頼を受けるようになったのは、震災の後からです。震災の前からもっと防災要素を取り入れて伝えていれば、助かった命があったかもしれない。そんな強い想いがあって、防災のコンテンツを充実させました。今では年間120回ほど、47都道府県全部で講演しています。

上島阿部さんのきっかけを伺うと、中学校の宮城県沖地震の体験から始まって、防災への道筋がつながっていらっしゃるなと感じました。でも私は、東日本大震災前まで防災の知識も関心もあまりありませんでした。広告やマーケティングの業界で働き、横浜で自分の会社を立ち上げて現在もマーケティング事業を展開しています。

震災後、仲間と復興支援で石巻市に行った際、後にダンボルギーニで有名になる今野梱包株式会社の代表取締役社長の今野さんに出会いました。今野さんは被災した学校の仮設校舎に段ボールロッカーを設置するなど、色々な活動をされていて、何か今野さんと防災のことができたらと思ったのが、現在の活動のきっかけです。

防災を考える基本のひとつとして、地形があると思います。震災では、地形を知らないことで犠牲になった命もあり、地形を知ることで、危ない面はもとより、良い面も知ることができ、より安全・確実な避難につながります。段ボールでゼロから地形をつくり、地形を知ることから始めたいと思い、2015年に一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワークを立ち上げました。東北発ではありますが、これまで全国で30弱の都道府県に展開してきました。阿部さんの47都道府県がうらやましいですね。

活動の中で大切にしていること・心がけていることを教えてください。また、現在の活動の中で課題に感じていることがあれば伺いたいです。

阿部まずは分かりやすく、楽しく伝えることを大事にしています。科学というのは「?(はてなマーク)」と「!(びっくりマーク)」の繰り返しですよと、よく子どもたちに話しています。「どうしてこうなるのかな?」という「?」を持つと、実際に手を動かし、時間をかけて実験をすることで発見がありますよね。「こういうことだったのか!」という「!」になるわけです。防災の面でも、どうしてこのような災害が発生したのかを、起きるたびに考えていくことが大事で、「こういう防災の方法があるんだ!」ということを見つける、または新しくつくることも必要だと話しています。

「仙台防災枠組2015-2030」の中でも「災害のリスクを理解し、共有すること」という項目がありますが、そういった意味で過去に起きた災害の実態をしっかりと伝えていくためには、テレビや新聞などの報道だけではなく、できる限り現地に赴いて実際の姿を見て伝えることを大切にしています。熊本地震や北海道胆振東部地震、能登半島地震の被災地に行き、住民のみなさんはどんなことに困っているのか、どんな課題が残っているのかなど、自分なりに調べています。

いま課題に感じているのは、小中学校での講演が多いのですが、中学生までの子どもたちは東日本大震災の記憶がありませんし、教育現場で震災時にどんなことがあったのかを伝えられる先生も少なくなってきていることです。そのため、人ごとではなく「自分ごと」として、どう防災・減災を捉えてもらえるかを、いつも悩みながら講演しています。

具体的には、災害そのものの被害はもちろん、停電などでライフラインが止まるとどうなるかという2次被害も伝えるようにしています。例えば冬だと、石油ファンヒーターは石油があっても、モーターにプロペラが付いているから回らなくて使えないこと、お風呂もマイコン式なので、燃料があってもお湯を沸かせないことなど、気づきにくいことを話したり、実験したりして、自分ごと化できるように工夫しています。

上島阿部さんのおっしゃる通り、まさに「?」と「!」は大事だと思います。防災ジオラマキットでも、組み立てることで自分が住んでいる地域の地形をまずは知り、例えば水害の場合はどのあたりが危ないか、理由も含めて考えてもらいます。そしてハザードマップを合わせながら、「この場所が警戒区域なのはなぜだろう?」と考えることで答えが見えてくるので、そういうプロセスがすごく大事だと思ってやっています。

実際にアンケートで、「組み立てるのが楽しい」という声と同じくらい「自分で考えて危険区域に旗を立てるのが楽しかった」との声をいただいいます。防災について「考えるプロセス」をいかにつくっていけるかを考えながら活動をしています。

阿部さんがおっしゃった「自分ごと」として防災・減災を捉えてもらうのは、なかなか簡単ではありませんが、私も根本的な課題だと感じています。また、防災ジオラマのワークショップ自体を知らない方が圧倒的に多いので、もっと色々な方に知っていただく機会をつくりたいというのも課題ですね。

互いがコラボすることで、防災の理解がより深まる可能性を感じる

お互いの話を聞いて、防災を身近に感じてもらう工夫をしているなかで共通点もあったと思います。率直な感想と、自分たちの今後の活動に活かせる点があれば教えてください。

阿部東日本大震災以降、台風や大雨での浸水被害が多く発生しており、全国共通で言えるのは、水害に対する備えは待ったなしになっています。講演で水害の話をする際、インターネットで国土地理院の地図を見ると、自分の住んでいる家の標高が簡単に分かるので、ご紹介するのですが、上島さんのジオラマがあれば、一目瞭然で非常に分かりやすいですよね。

本日持ってきていただいたジオラマを見ますと、私の母校が目の前にありますが、川のすぐ近くなので、標高が低かったと改めて分かりました。それが自分の地域のものであれば、より関心を持てますので、すばらしい手法だと思います。

上島阿部さんのお話を聞いて「防災エンスショー」をもっと知りたいと思いました。概要と講演時間を教えてください。

阿部全体の時間は最大90分で、場合によって30分や60分など、組み替えができるようにしています。
本日炭酸飲料が入っていた空のペットボトルを持ってきているのですが、身近なもので雲をつくる実験ができます。中にアルコール消毒液をスプレーで吹きかけ、ポンプつきの炭酸キーパー(炭酸保持用のボトルキャップ)でフタをします。ポンプがこれ以上押せなくなるまで空気を入れると、中の空気が圧縮されて、気圧が高い状態になります。最後にフタを開けると「ポンッ」と音を立て、一気に空気が外に出ていくことで、ペットボトル内の気圧が低くなり、ペットボトル内に雲ができます。

雲ができる仕組みが分かったことで、地球温暖化により暑い日が増え、海水温が上昇したことで海の水がどんどん蒸発して、大きな雲ができ、大雨になる可能性が高くなることから、水害につながる可能性を考えたり、防災を考えるきっかけにしたりというプログラムを展開しています。

上島教えていただきありがとうございます。私たちはジオラマという地図の中で、ここは傾斜が急だから危ないなどと考えてもらうのですが、さらにもう一歩踏み込んだ部分、例えば崩れるメカニズムの説明や再現ができないので、阿部さんの実験とセットで話せると、よりリアリティを感じ、記憶に残りやすいと思いました。一緒にぜひやれたらいいですね。

阿部そうですね。以前、川沿いにある小学校で理科の実験を行いました。水の流れや川のつくりについて説明する時、防災ジオラマがあると分かりやすいですよね。また、講演の際に参加者が多いと、代表者だけに体験してもらうことが多いため、講演後に防災ジオラマのワークショプを行えば、全員で地形を組み立てられて、理解がより深まると思います。

モリノカレッジは、「防災環境都市・仙台」の実現に向け、ステークホルダー同士のつながりの輪を広げるプラットフォームです。防災・減災のために、こういった方(団体)とつながりたいなどの思いはございますか。

上島地元でまちの防災を考えていらっしゃる、地域の防災士さんとつながりたいですね。私たちのワークショップで参加者が学んだことを、どう地域に取り入れられるかが重要だと考えているからです。防災士さんと、地域に防災を取り入れられる仕組みづくりができたらと思っています。

また、防災だけではなく、まちづくりに取り組んでいる方ともつながりたいですね。夏に「ジオラマ×謎解き」という形で、ジオラマ上の街にあるフラッグから、謎を解く鍵が得られるというイベントを開催しました。環境学習や観光など、多角的な視点で防災ジオラマを活用してもらいたいです。

阿部防災教育の大切さは非常にクローズアップされていますが、子育て支援団体のみなさんと防災団体はなかなか接点がないと感じています。年齢によって様々な段階があると思いますが、防災教育をもっと身近なところで受けられるようになったらと思っています。

例えば、私の知人で「ぼうさいNURIE」の活動をしている方がいます。非常用持ち出し袋の中身が塗り絵になっていて、色を塗るだけで「ラジオが必要なんだ」など、楽しく学べる仕掛けになっています。そういう子育て支援団体とのマッチングといいますか、幼児なら、小学生ならこんな学び方がありますよと、お知らせできる接点があるといいなと思います。

今回のクロストークでの感想と、今後の展望を教えてください。

上島まずはクロストークの場をいただけてありがたいですし、これを機にぜひ阿部さんと何かを一緒にできたらと思います。また、先ほども話しましたが、今後は防災ジオラマの認知を広げていきたいですし、防災以外の部分でもどんどん使われるように活動を広げていきたいですね。

最近、「南海トラフ地震の都道府県別の最大津波高」のジオラマキットをつくりました。
南海トラフ地震で津波が発生する恐れがあることは認知されていますが、実際にどれくらいの高さと範囲なのかを知っている方は少ないと思います。津波被害は広範囲に渡ることが想定されていますので、南海トラフ地震とは関係ないエリアに住んでいる方でも、例えば物流が止まる恐れがあるなど、想像できると思います。これまでの防災ジオラマキットは、身近な地域が対象でしたが、もっと広い視野でも伝えられたらと。色々と、手を変え品を変えてやっていけたらと思っています。

阿部上島さんの「手を変え品を変え」はおっしゃる通りで、防災には多角的な面からのアプローチが必要だと感じています。ラジオ局にいた時、消防士の方にインタビューをする機会があり、「防災に対する認識を持ってもらうことが一番大事」とおっしゃっていました。やはり防災教育なのだと思います。学校教育の中だけではなく一般市民に対する社会教育、生涯学習の一環としても取り入れていくことが必要だと思っています。

本日は、上島さんの事例や考え方をお聞きできて、いい機会をいただきました。防災に関して活動する団体紹介や交流会のようなものができたらいいですね。自分たちの活動を広めたい方は多いと思いますので、そういったことができればいいなと思います。

今後は、私の実験を学校の先生方に、防災教育の中でどんどん展開していただきたいと考えています。そのためには、将来教員を目指す学生たちに対して、「防災エンスショー」のやり方を教える、伝授する機会を作っていきたいなと考えています。

株式会社MCラボ/阿部清人サイエンスショー

「科学」「防災」「環境」をテーマに、全国各地で分かりやすいトークと楽しい科学実験による講演・セミナーを行っています。

一般社団法人 防災ジオラマ推進ネットワーク

段ボール製のジオラマキットを活用したワークショプ型の防災学習プログラムを全国で展開。段ボール製のジオラマキットは、謎解きイベントなどの観光やまちづくりにも活用範囲を広げています。
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