Cross Talkクロストーク
昔の暮らしを未来へつなぎ、東部沿岸部に新たなにぎわいを育む
遠藤環境農園 × JRフルーツパーク仙台あらはま
▲(左から)遠藤環境農園/遠藤 源一郎さん 仙台ターミナルビル株式会社/観光農業部長 兼 JRフルーツパーク仙台あらはま所長 山岸 浩太郎さん
東日本大震災で津波による大きな被害を受けた仙台市東部沿岸部。宮城野区新浜地区では現地再建により、地域で暮らし続ける人々が自然や農業を通じた活動を続けています。一方、若林区荒浜地区では防災集団移転跡地を活用した新たな地域づくりが進められています。
新浜地区の「遠藤環境農園」では、ブランド米「仙台メダカ米」のササニシキとつや姫の栽培などを通じて、生きものと共生する農業を実践しています。また、カントリーパーク新浜では農薬や化学肥料を使わない自然農法の米作りや環境学習を通じて、人と自然、人と地域をつなぐ活動を行なっています。
「JRフルーツパーク仙台あらはま」は、観光農園での飲食・直売・体験コンテンツの提供などを通じて、東部沿岸部の新たな魅力を発信し、国内外から人々が訪れるにぎわいを創出しています。
今回は、遠藤環境農園の遠藤源一郎さんと、JRフルーツパーク仙台あらはま所長の山岸浩太郎さんに、東部沿岸部の魅力や地域の未来についてお話を伺いました。
東部沿岸部の魅力を育む、それぞれの想い
プロフィールを教えてください。
遠藤
私は新浜の出身です。仙台市役所に勤め、八木山動物公園長を最後に2013年に退職しました。翌年からは地元の新浜地区で「遠藤環境農園」を始め、震災前にあった故郷の豊かな自然を取り戻したいという想いで、農薬や化学肥料を使わない「仙台メダカ米」をつくっています。
新浜は現地再建した地域ですが、震災後は住む人も少なくなりました。町内会の役員として地域のにぎわいづくりにも関わりながら、この場所の自然や暮らしを伝えていければと思っています。
山岸 私は仙台ターミナルビル株式会社で約30年間、ホテル事業に携わってきました。今年4月から観光農業部長兼JRフルーツパーク仙台あらはま(以下、フルーツパーク)の所長を務めています。東日本大震災で大きな被害を受けた荒浜地区ですが、仙台市の防災集団移転跡地利活用事業に参画し、この場所をもう一度にぎわいのある場所にしたいという想いで運営しています。
東部沿岸部で活動するに至った経緯や想いを教えてください。
遠藤 震災当時は八木山動物公園の園長を務めていました。当時は、津波で姿を消した井土地区の「井土メダカ」を再生させようと、動物園と宮城教育大学が連携して進めた「メダカ里親制度(※1)」にも関わっていました。
その頃からご縁のあった宮城教育大学の棟方有宗先生と東北学院大学の平吹喜彦先生や、3人の農家とともに立ち上げた「カントリーパーク新浜」では、生きものと共生する米づくりやビオトープづくり(※2)、田植え・稲刈り体験、生きもの観察会などを通じて、こどもたちが自然に触れる活動を続けています。
また、平吹先生とのつながりから、新浜だけでなく荒浜や蒲生など、東部沿岸部全体をつなぐ活動にも関わるようになりました。「仙台・名取の海辺マップ」という、沿岸部に生息する動植物を紹介するリーフレットの作成などにも取り組みながら、この地域で暮らす人たちの営みや自然の豊かさを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。
フルーツパークさんのように多くの人が訪れる場所ができたことで、地域の魅力を発信する力も大きくなりました。かさ上げ道路より海側は、自然や環境を大切にしながら地域全体でつながっていけるといいなと思っています。
※1 メダカ里親制度: 東日本大震災の津波で若林区井土地区から姿を消した固有の遺伝子を持つ「井土メダカ」を、宮城教育大学で調査・保全されていた個体をもとに、八木山動物公園・宮城教育大学などが連携して里親制度を実施。飼育・増殖したメダカを地域へ戻すことで、自然環境の再生を目指した取り組み。
※2 ビオトープ:野生の生き物たちが自然のままに共存・生育できる空間のこと。
山岸
仙台ターミナルビル株式会社には、「東北をもっと元気にする」という理念があります。フルーツパークでは、その想いのもと、「震災復興」「地域連携」「農業振興」の3つを柱に事業を進めています。観光農園を通して地域の魅力を発信し、多くの方に東部沿岸部を訪れていただくことが、地域の未来につながると考えています。
私自身は、ホテル事業で培ってきたホスピタリティを生かし、「来てよかった」「また来たい」と思っていただける場所をつくることが、今の使命だと感じています。荒浜地区には震災前、約800世帯がありました。もう一度、笑顔あふれるにぎわいのある場所をつくることが、この地域の活性化につながると考えています。
「農業」や「⾃然環境」を通した活動を続ける中で、感じている変化や手応えはありますか?
遠藤
無農薬でメダカと共生する米づくりは簡単ではありません。震災前に稲の無農薬栽培に挑戦したことがあったのですが、うまくいかず、震災後に栃木県のNPO法人(民間稲作研究所)で栽培方法を学びました。
ただ、技術だけでは続けられません。地域のみなさんに理解していただくことが何より大切です。メダカやドジョウなど、さまざまな生きものが田んぼで暮らし、準絶滅危惧種のミズアオイの花が咲く風景を見てもらうことで、「こういう米づくりもあるんだね」と少しずつ受け入れてもらえるようになりました。
私にとってメダカは、生きものを守るだけでなく、人と人、地域をつなぐキーワードでもあります。震災前にこの地域で暮らしていた方の中には、「自分は戻れないけれども、メダカだけでも故郷へ戻したい」と、里親制度に参加された方もいらっしゃいました。この地域の自然や暮らしを考えるきっかけにもなっていると感じています。
また、カントリーパーク新浜では、田植えや稲刈り、生きもの観察会などを通じて、こどもたちに農業や自然に触れてもらっています。作物がどのように育つのか、農業の現場を知ってもらうことが、食や自然への理解にもつながっていくと思っています。
山岸
遠藤さんのお話を伺って、本当に共感する部分がたくさんありました。実際にフルーツパークの現場に入ってみて、それまで自分が考えていたこととの違いを強く感じています。
以前は、「おいしいフルーツがあって、それをどうPRし、どうお客様に来ていただくか」という企画や広報の視点で考えることが多かったんです。しかし、実際に農園では、スタッフが気候変動などとも向き合いながら、お客様に喜んでいただけるおいしいフルーツを一生懸命育てています。
その姿を見て、まずは現場で良いものをつくることがあって、その先に企画や広報があり、お客様に楽しんでいただけるという流れなんだと実感しました。これまでホテル事業で培ってきた経験に加え、現場で働く人たちの想いや苦労もしっかり受け止めながら、この地域の魅力を伝えていきたいと思っています。
次世代へつなぐ、東部沿岸部の未来
次世代を担うこどもたちを対象とした取り組みを伺いました。こどもたちにはどのようなことを期待していますか?
遠藤
カントリーパーク新浜では、仙台市と連携した田植え・稲刈り体験や、生きもの観察会を行っています。毎年多くの応募があり、こどもだけでなく、保護者のみなさんにも参加いただいています。田んぼへ入るのは初めてという方も多く、親子で一緒に自然を楽しんでいただいています。
実際に田んぼへ入り、生きものを見つけたり、自然に触れたりすると、こどもたちは本当に目を輝かせるんです。そうした体験を通して、生きものや自然、農業を身近に感じてもらえたらうれしいですね。
また、こうした取り組みは地域だけにとどまりません。八木山動物公園とマダガスカル共和国とのつながりをきっかけに、JICA事業を通じて、マダガスカル共和国でも新浜で培ってきた自然と共生する地域づくりや環境学習の考え方を紹介し、交流を続けています。
マダガスカル共和国の沿岸部は、米づくりが盛んな地域で、新浜との共通点も多くあります。一方的に活動を伝えるのではなく、お互いの自然や暮らしから学び合いながら、その地域らしい環境保全や人づくりにつなげていくことを大切にしています。地域で育んできた取り組みが、世界へ広がっていくこともうれしく感じています。
山岸
フルーツパークでは現在、面積を約2倍に広げる二期拡大計画を進めています。栽培品目やマルシェの充実はもちろん、全天候型の屋内遊び場の整備なども予定しており、2027年7月の開業を目指しています。フルーツを楽しむだけでなく、「まずは遊びに行ってみたい」と思ってもらえる場所にしたいと考えています。仙台市内で家族が気軽に楽しめる新たな目的地となり、東部沿岸部へ足を運ぶきっかけになればうれしいですね。
また、震災伝承館の整備も予定しています。防災集団移転跡地が現在の姿へと生まれ変わるまでの歩みなど、同じ荒浜地区の震災遺構仙台市立荒浜小学校とも連携しながら、この場所ならではのストーリーを伝えていきたいと考えています。
「日本一楽しいフルーツパーク」を目指しながら、震災の記憶や地域の歴史を伝えていくことは、決して簡単なことではありません。それでも、こどもたちには楽しみながらこの場所を訪れ、東部沿岸部の歴史や人々の歩みに自然と触れてもらえたらと思っています。そうした積み重ねが、震災の記憶を風化させず、地域の未来につながっていくのではないかと考えています。
これからの東部沿岸部を見据え、お互いの活動を生かして一緒に取り組んでみたいことはありますか。
遠藤 フルーツパークさんは、この地域の人を呼び込む大きな拠点になっていると思います。「仙台メダカ米」をはじめ、地域の農産物も販売していただいていますし、その発信力はとても大きいと感じています。クロストークをきっかけに東部沿岸部全体の魅力がさらに伝わり、周辺の農家や地域の活動にも目を向けてもらえるような流れができるといいですね。
山岸
遠藤さんのお話を伺って、この地域には「磨けば光る」ポテンシャルがたくさんあると改めて感じました。地域のみなさんがこれまで積み重ねてきた活動や想いをもっと知り、それを生かしていかなければならないと強く感じています。
みなさんと一緒に汗をかきながら、この地域の魅力をさらに磨き上げ、多くの方にその魅力を届けていきたいと思っています。
遠藤
この地域は、かさ上げ道路から見える景色も本当に素晴らしいですし、みちのく潮風トレイル(※3)などもあって、自然そのものが大きな魅力です。私は、この東部沿岸部全体を「自然の博物館」のような場所として楽しんでもらえたらと思っています。
新浜や荒浜だけではなく、蒲生なども含めて、それぞれの地域や人の営みをつなぎながら、全国、そして世界にも誇れる地域として、もっと仙台市民のみなさんに知っていただきたいですね。
※3 みちのく潮風トレイル:東日本大震災からの復興に資するため環境省が策定した「グリーン復興プロジェクト」の取組みのうちの一つ。東北太平洋沿岸の1,000kmを超えるロングトレイルは、2019年に全線開通し、多くのハイカーたちに親しまれている。
山岸
私も同じ想いです。フルーツパークだけが目的地になるのではなく、この地域をめぐり、それぞれの魅力に触れていただけるような流れをつくっていきたいと思っています。
そのためにも、地域のみなさんと力を合わせながら、東部沿岸部全体の魅力を発信し、未来へつないでいきたいですね。
最後に、今回のクロストークを通して感じたことと、東部沿岸部を訪れるみなさんへのメッセージをお願いします。
遠藤
この地域では東日本大震災で大きな被害を受けましたが、昔から、人と人が支え合い、自然とともに暮らしてきた歴史があります。海へ泳ぎに行ったり、漁で獲れた魚を近所で分け合ったり、当時は当たり前だと思っていましたが、今振り返ると本当に恵まれた、かけがえのない暮らしだったと感じます。
そうした暮らしは震災で大きく変わりましたが、「この地域にはこんな暮らしがあったんだ」ということを、ぜひ多くの方に知っていただきたいですね。そして、新浜や荒浜など、東部沿岸部全体が、これからも人が集い、にぎわいのある地域であってほしいと思っています。
山岸
この地域には自然や農業だけではなく、人々が育んできた暮らしや想いがあることを改めて感じました。私たちも、そうした魅力を多くの方へ届けていきたいと思っています。
実は私自身、こどもの頃から食卓の最後にフルーツを食べるのが楽しみで、フルーツには「幸せな時間」のイメージがあるんです。フルーツという言葉を聞くだけで、みなさん自然と笑顔になりますよね。私もなんだかうれしい気持ちになります(笑)。
だからこそ、このフルーツパークも、こどもたちにとって「また来たい」「楽しかった」と思える場所になってほしい。そして大人になり、家族ができたときに、「こどもの頃によく遊びに来たね」と、またこの場所へ帰ってきてもらえたら、こんなにうれしいことはありません。そんな場所を、この地域のみなさんと一緒につくっていきたいと思っています。

遠藤環境農園
