小さなこどもの安全と笑顔を守る、施設スタッフが語る備えと願い
仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール×せんだいファミリーサポート・ネットワーク
▲(左から)仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール/施設管理担当マネージャー 菊池 俊介さん 特定非営利活動法人せんだいファミリーサポート・ネットワーク/代表理事 伊藤 千佐子さん
「仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール」は、アニメ「それいけ!アンパンマン」の世界を再現したテーマパークとショッピングモールを複合した施設です。来場した小さなこどもを連れたご家族が安全に過ごせるよう、災害時を想定した訓練を実施しています。
一方、「せんだいファミリーサポート・ネットワーク」は、青葉区と若林区の子育てふれあいプラザ「のびすく」を運営しています。子育て支援施設として、小さいこどもを持つ家族の「孤立を防ぐ」「地域につなげる」視点で防災のメッセージを届けています。
今回は、仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール
施設管理担当マネージャー・菊池俊介さんと、せんだいファミリーサポート・ネットワーク 代表理事・伊藤千佐子さんで、クロストークを行いました。
「こども」に対する、民間施設とNPOが取り組む継続的な防災
プロフィールと運営施設、事業内容について教えてください。
菊池「仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール」(以下、アンパンマンこどもミュージアム)は、 アンパンマンを応援してくれているこどもたちとそのご家族に、元気100倍の笑顔になれる場所を提供しようと、2011年7月に開業しました。来館された方々にアンパンマンの世界を楽しんでいただくにあたり、安心・安全の確保は不可欠です。私は、施設管理担当マネージャーとして、施設の安全管理や、防災・減災を目的としたスタッフ向けの研修を担当しています。アンパンマンこどもミュージアムでは、来場されるお子さまやご家族が安全に過ごせるよう、災害時を想定し、施設内のさまざまな訓練や研修に取り組んでいます。
伊藤「せんだいファミリーサポート・ネットワーク」は、今から22年前に、仙台・宮城の子育て家庭の支援を目的に立ち上がったNPO法人です。主な事業は、仙台市の指定管理を受けて、21年前から子育てふれあいプラザ「のびすく仙台」、8年前からは「のびすく若林」の運営をしています。また、新米パパのための育児ノートやママを応援するハンドブックの制作、親子向けイベントの開催など、子育て家庭に関わる様々な事業も行っています。
各施設で取り組んでいる防災について、詳しく教えてください。
伊藤阪神・淡路大震災や新潟の地震を経験された方々から乳幼児のための防災を学び、その知識をまとめた防災ハンドブックをつくりました。東日本大震災のときには、そのハンドブックが役立ったという声をたくさんいただきました。その上で「自分たちの体験も次の世代に役立ててほしい」と、のびすくを利用しているお母さんたちが声を上げてくれたんです。東日本大震災の経験を防災ハンドブックに反映するためにアンケートを実施し、震災から3カ月もたたないうちに200人以上のお母さんが協力してくださいました。近年、水害が多発しております。防災ハンドブックに大雨や台風の情報を追加して再版し、現在も配布を続けています。
また、震災をきっかけに防災士の資格を取るお母さんがいて、運営するのびすくでは防災士になったお母さんを講師に迎えて、毎年必ず、乳幼児のご家族に対して防災講座を開催しています。親の危機感から、年々、イベントの参加率は高くなっているように感じています。
さらに、東松島・石巻・気仙沼など東日本大震災で被害が大きかった地域へ継続的に通い、現地の方々とお茶を飲みながら話すサロン形式の場をつくる活動も行ってきました。震災から15年が経とうとして今は訪問回数こそ減りましたが、「今だからこそ話せる」と参加してくださる方もいて、続けることの大切さを強く感じています。
菊池開業当初は年2回の消防訓練と年1回のAED講習のみ実施していましたが、非常時に安全を最優先した行動を取れるよう、研修や訓練の機会を増やしてきました。研修等を拡充するにあたり、施設に入居する店舗のスタッフにもアンパンマンこどもミュージアムが掲げる安心・安全の理念を共有しながら、ミュージアム・店舗スタッフ合同の研修も実施しています。
例えば大きな地震発生に備えて、施設全体で訓練を実施し、避難時のお客様への声掛けを実践し、避難経路の確認などを行いました。
お客様にとってはミュージアムスタッフも店舗スタッフも共に、「アンパンマンこどもミュージアムのスタッフ」です。研修ではその点についてもしっかり伝えています。
また、新しく入社するスタッフには、非常時の動き方や、救護対応などをまとめたポケットマニュアルを配布し、基本的な対応をいつでも確認できるようにしています。
しかし、訓練や研修はあくまでも学びのきっかけです。いざというときに臨機応変に動けるよう、まずは基本をしっかりと身につけておくことが大切だと考えています。
伊藤基本的な訓練は、いざというときに自然と体が動くように体に染み込ませておくことが大切ですよね。私たちのようにシフト制の施設では、常に同じスタッフが対応できるわけではなく、来館者の人数も日によってバラバラです。そうした状況でも適切に動けるようにするには、誰がその場にいても、どんな状況でも対応できるよう、基本的な訓練を繰り返し行うことが必要だとつくづく思います。
親の不安を取り除き、こどもに安心を与える防災の工夫
こどもに対する防災で、「大切にしていること」や「工夫していること」を教えてください。
伊藤のびすくを利用するこどもはほとんどが乳幼児なので、私たちが行う防災の働きかけは親が中心になります。災害時に乳幼児は自分で自分の身を守ることができません。そのため、まずは親自身が安全を確保することで、結果としてこどもを守れるという考え方を大切にしています。「自分の身は自分で守る」という災害の鉄則を踏まえつつ、こどもを守るために親がどう行動するべきかを伝えるようにしています。
菊池まさに伊藤さんと同じ考えです。アンパンマンこどもミュージアムも小さなお子さまの来場が多く、遠方から来られるご家族は土地勘もありません。そのため、災害時に直接お子さまへ何かを伝えるというよりも、まずは親御さんへの対応が重要になります。実際、大きな地震や緊急地震速報の音で、親御さんが慌ててしまうことも少なくありません。小さなお子さまは大人の焦りを敏感に感じ取って不安になってしまいます。まずはスタッフ自身が落ち着き、その上で親御さんを落ち着かせられるような声掛けをすることを、訓練の中でも徹底しています。
そして、お子さまには「怖かったね」「びっくりしたね」という不安をあおるような声掛けはしません。スタッフは避難場所でも「アンパンマンと会えた?」「今日は何して遊んだの?」といつもと変わらない会話をすることで、安心して楽しい記憶を持ち帰っていただけるようにしています。
伊藤親の不安はこどもに伝わるので、親が平常心でいることがとても大切ですよね。そしてそのためには、周りの大人が平常心でいることが何よりの支えになると私たちも考えています。私たちは親を守り、親にはこどもを守ってもらう姿勢を大切にしています。
東日本大震災のとき、「のびすく仙台」にはお母さんとこどもが20組ほどいましたが、まず全員一カ所に集まってもらい、こどもを真ん中に、その周りをお母さんが囲み、さらにその外側をスタッフが囲む形で揺れに耐えました。普段の訓練通りに動いたことでお母さんたちも落ち着いてくださり、その安心感がこどもにも伝わったのか、泣き叫ぶ子はいませんでした。
菊池地震に対する研修では、緊急地震速報が鳴った際にはまず落ち着いて「大きく揺れるかもしれません」と親御さんに声を掛けるよう伝えています。実際に大きく揺れなくても、その事前の声がけだけで安心につながるためです。
2021年5月、営業時間中に震度5弱の地震があり、お子さまたちが遊んでいる最中に緊急地震速報が鳴りました。そのときもスタッフは訓練通りに冷静に声掛けを行い、お客さまも落ち着いて指示に従ってくださいました。一時的に屋外へ避難し、安全確認のため営業再開を判断するまでの間、遊んでいる途中でも移動をお願いする場面がありましたが、混乱はありませんでした。この経験は、日頃の訓練が生かされていると感じられ、強く印象に残っています。
防災の取り組みを続けていく中で、スタッフや施設の利用者にどのような変化が生まれたと感じられますか?
菊池研修や訓練の回数を重ねる中で、スタッフの防災意識が着実に高まっていると感じています。内容自体は大きく変えていませんが、同じことを繰り返し学ぶことで徐々に頭と体にしみ込んでいくものです。
最近は、以前研修に参加したスタッフから「次も必ず参加したい」という声があがったり、アンケートに今後学びたいテーマを書き込んでくれたりと、スタッフ自身が主体的に関わる姿勢が見えるようになってきました。
伊藤私たちスタッフの防災意識そのものは、ほとんどが東日本大震災を経験していることもあり、震災当時から大きくは変わっていません。ただ、最近、特に強く感じているのは、来館者のお母さん、お父さんたちの意識の高まりです。
震災当時はまだこどもだった世代が親になりつつありますが、当時の記憶があまり残っていないことも多く、親になって初めて「この子をどう守るか」を真剣に考えるようになります。また、仙台には転勤されてきた方が多く、震災を宮城県外で経験した、あるいは未経験のまま仙台で子育てを始めた方も少なくありません。知り合いが少ない土地で育児をするなか、「こどもは自分たちで守らないと」という思いがいっそう強くなっているように感じます。最近は、お父さんが育児に参加しやすい環境になったことで、お母さんだけでなく、お父さんの意識の変化も明確になってきました。
新たに進めている防災の取り組みを教えてください。
伊藤防災イベントや講演を継続していくことです。その中で、震災に目をつむる方に対して、どうやって防災を伝えていくかが課題のため、そこへのアプローチを考えています。また、運営するのびすくを災害時にも安全な場所として提供できるよう、備えなどの検討を始めています。
菊池施設にはスタッフが数100人在籍しています。全員が一度に研修を受けられない場合もあるので、研修の動画を作り、スタッフがいつでも学べる環境づくりを進めています。
お互いの取り組みを知り、今後、一緒にやってみたいことはありますか?
伊藤アンパンマンこどもミュージアムさんとは日頃から連携し、アンパンマンこどもミュージアム館内の「仙台市子育て応援情報ステーション」に情報提供を行ったり、館内の店長会議へ参加させていただいたりしています。のびすくを利用される方の多くはアンパンマンこどもミュージアムにも足を運ばれるので、私たちが日頃から情報を共有し合うことは双方にとって大きな意味がありますし、今後も一層、大切にしていきたい連携ですね。
菊池せんだいファミリーサポート・ネットワークさんで防災講座を実施されていると伺い、ぜひ学ばせていただきたいと思いました。アンパンマンこどもミュージアムにも子育て中のスタッフが多くいますので、講座に参加させていただき、その学びを施設の研修にも取り入れ、発信していきたいと思います。
「こども」の防災対策は家族や施設など様々なところで進められていますが、日々、こどもたちと関わる立場から、メッセージをお願いします。
伊藤のびすく仙台は、東日本大震災のわずか4日後に再開しました。「こんな大変な状況で来館者はいないだろう」と思っていたのですが、実際には100人以上のお母さんとこどもたちが来てくれました。震災後はお母さんから離れられなくなったり、親の姿が見えないだけで泣きだしてしまったりするこどもも多かったそうですが、お母さんたちは「少しでも早く日常に戻したい」という思いで、いつも遊んでいたのびすくに足を運んでくださったのだと思います。その時、お母さんたちから「こどもがようやく手を放してくれた」「震災後、初めて笑った」といった声をたくさん聞き、こどもにとって日常の遊びがどれほど大切か、改めて実感しました。
そして、親が不安な顔をしていると、その気持ちは必ずこどもに伝わります。震災当時、誰かに声を掛けてもらったり、誰かと一緒に過ごせたりしたお母さんは、気持ちの立て直しがとても早かったんです。一方で、ずっと一人でこどもを抱えていたお母さんは、不安を長く引きずってしまう傾向がありました。だからこそ「助け合い」や「人とのつながり」は、親だけでなく、こどもにとっても本当に大切だと感じています。
友達になるのは難しくても、知り合いをつくるだけならそれほど難しくありません。近所を散歩している時に、知らない人でも「こんにちは」と声を掛ける、自分の存在を伝えておく、それだけで十分です。もし何かあった時に「あそこに小さなこどもがいたな」と思い出してもらえたら、それが助けにつながります。どうか、ひとりぼっちにならず、誰かとつながっていてほしいというのが、私からのメッセージですね。
菊池災害は、いつどこで起きるか分かりません。近年は自然災害が頻発し、完全に災害を「防ぐ」ことは困難となっています。だからこそ、アンパンマンこどもミュージアムでは、日頃からスタッフ全員で訓練を重ね、非常時にも落ち着いて行動できる体制づくりに力を入れています。避難誘導だけでなく、初期対応やお客様の安全確保など、さまざまな状況を想定した「減災」の取り組みを行い、施設全体の安全性を高めていますので、お客様には安心して遊びに来ていただければと思います。
スタッフにも日常的に伝えているのは、もし今ここで地震が起きたら「どういう危険があるか」「どう避難誘導すれば安全か」を常にイメージしておくことです。日頃から少しでもシミュレーションしておけば、いざというときに落ち着いて行動ができます。これはスタッフに限らず、どなたにとっても大切な日頃の備えだと思います。
今回のクロストークの感想を教えてください。
伊藤今回、こうしてアンパンマンこどもミュージアムの菊池さんとお話しできたことで、日ごろ接しているこどもたちが憧れるアンパンマンを、私自身もより身近に感じることができました。
のびすくは仙台市が子育てを支援する施設、アンパンマンこどもミュージアムさんはアンパンマンの大切にされている世界観があります。お互いに大事にしているものがあるからこそ、これまではどう関わるのが良いのか慎重に考えてきましたが、今回、お話をしてみて、まだまだ一緒にできることが見つかりそうだと感じました。今後、連携の幅が広げられそうなことがあれば、ぜひお声掛けさせていただきたいと思います。
菊池せんだいファミリーサポート・ネットワークさんとは、普段はこうしてお話しする機会がなかなかないので、本当に貴重な時間でした。今回の対談をきっかけに、今後も一緒に防災・減災に関して取り組みたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。

仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール
