
日常の連携が防災力を高め、お客様と地域を守る力となる

▲(左から)森トラスト株式会社/執行役員 仙台支店長 松井 徳彦さん 株式会社藤崎/総務部 ゼネラルマネージャー 根本 雄二さん

「森トラスト株式会社」は、オフィス・ホテルなどの大規模都市開発を手がける総合不動産ディベロッパーで、仙台支店では、ホテル・オフィス・商業施設を擁する「仙台トラストシティ」をはじめ、他3棟のビルを運営しています。
一方、「株式会社藤崎」は、1819年に仙台・大町に得可主屋として創業し、今年創業206年目を迎える百貨店です。現在は仙台市青葉区一番町に4館体制で本店を構え、宮城県内と青森を除く東北の各地に17の店舗・拠点を展開しています。
森トラスト株式会社の執行役員 仙台支店長・松井 徳彦さんと、株式会社藤崎の総務部ゼネラルマネージャー・根本雄二さんで、クロストークを行いました。
震災を経て進化した防災力の強化と実践
プロフィールと現在の活動内容を教えてください。

松井私は2018年7月に仙台市に来て、今年で7年目になります。岡山出身で、大学進学後の生活の拠点はずっと関東でした。そのため、東北は初めてで不安もありましたが、実際に来てみると一瞬で大好きになりました。「杜の都」の名の通り、空気がさわやかで緑豊かな街並みが魅力的ですし、魚介類が特に美味しく、地酒にも魅了されています。趣味のマラソンでは、仙台国際ハーフマラソンをきっかけに走ることがさらに好きになり、広瀬川や緑に囲まれた街で気持ちよく走れています。
当社は総合不動産ディベロッパーとして、不動産事業、ホテル&リゾート事業、投資事業の3つを柱にしています。仙台では、オフィスや貸会議室、ウェスティンホテル仙台、商業施設を含む大規模複合ビル「仙台トラストタワー」と他3棟を運営・管理しています。
この仙台トラストタワーと周辺のレジデンスを「仙台トラストシティ」と称し2010年にオープン、仙台支店を開設しました。藤崎さんの200年以上の歴史には及びませんが、今年で開設から15年が経過します。

根本私は藤崎に入社後、食品売場で2年勤務した後、システム企画部門に11年、その後は経営企画部門で中長期的な視点での企業活動の計画、推進を担当しておりました。時代の流れにより、急激に価値観が変化している中、企業活動を長い時間軸で捉えたときには、様々なステークホルダーとの協業がさらに必要であり、特に地域における連携を強固にしていくことが非常に重要だと感じておりました。そのような中、2024年5月に総務部へ異動し、総務全般の業務に加え、CSRや防災・防犯などの安全・安心な店舗づくりに関する業務に携わっています。
弊社は2019年の創業200周年の際に、トラストシティさんの会場で記念パーティーを開催させていただいたご縁があります。また、このような形でご縁をいただきうれしく感じております。
東日本大震災当時の状況を教えてください。

松井仙台トラストシティがオープンして約半年後に東日本大震災が発生しました。当ビルは、揺れを吸収する制震構造でしたので、被害は限定的でした。地震直後に市内では停電が発生しましたが、当ビルでは非常用発電機が速やかに稼働し、明かりや暖房が機能しました。外が暗い中、煌々と明かりが灯っていたことから、1階のエントランスに人々が集まって来られたため、のべ3,600人の帰宅困難者を受け入れました。
また、当時は電話がつながらない状況でしたし、停電でテレビも見られませんでしたので、仙台市中心部では津波が来ていることを知らない方が多くいたと聞いています。当社では、「グリッド型BCP」という、グループ会社も含めた全国の施設とのネットワークシステムでの連結を独自に構築していることから、様々な情報をキャッチすることができていました。それらの情報を何らかの形で提供できればと思い、1階のエントランスにインフォメーションセンターを設置しました。
さらに館内のコンセントを開放し、無料の携帯充電スポットを設置しました。
根本震災当日は、1年間の中でも多くのお客様を動員するカード会員様優待催事の初日であり、館内には従業員も含めて約4,500人がいました。ちょうど催事場でもイベントが行われ混雑する時間帯でしたが、日頃の訓練の成果もあり、全従業員がお客様の安全確保を最優先に行動し、物理的な安全確保はもちろんのこと、お客様に安心していただけるよう声をかけ続けたことで、幸いにも負傷者を出すことなく、無事に避難することができました。
松井様がお話しされた素晴らしい制震構造の後にお恥ずかしいところもあるのですが、藤崎の本館は歴史の歩みとともに、増築、拡大を続けてきた建物です。当然、耐震補強は行っていましたが、床や天井などハード面の被害は大きく出ました。従業員がお客様に寄り添い、安全の確保に努めたことで、後日お客様から感謝のお手紙をいただいたこともありました。本当に従業員の対応力のおかげだったと感じます。

2011年3月12日の販売の様子
震災後は、お客様の安全確保を最優先としながら、営業を通じて生活を支えることも使命と考えました。翌日にはアーケードに売り台を設置し、食品や生活必需品の販売を開始。日ごとに売り台を増やしながら継続的に販売を実施し、お客様に必要な物資を届けました。
震災を踏まえ、防災面で力を入れていることや独自の取組を教えてください。

松井仙台トラストタワーでは、年に一度の避難訓練と避難基準のマニュアル化を実施しています。例えば、ホテル火災発生時には、階ごとに避難完了時間を設定し、シミュレーションをしています。また、ビル管理スタッフが毎週その内容を確認し、緊急時に備えています。こうした訓練の積み重ねにより、全従業員がスムーズに避難できる体制を整えています。
コロナ禍ではリモート避難訓練を実施しました。当社では震度5弱以上の地震が発生した場合、勤務エリア内での出社が求められていましたが、この訓練により、無理に移動しなくても情報収集が可能で、ネット接続さえあれば現場と同様に初動対応ができることが確認できました。コロナ禍を経て、自宅や他の場所からも本部と同じ環境で会議に参加できるシステムが構築され、実証されたことが非常に有益だと感じています。
また、独自の取り組みとして、先ほど話した「グリッド型BCP(事業継続計画)」があります。全国の施設を、東京・仙台・大阪の三拠点体制で、各エリアの基幹施設を中心にグループ化し、一元管理を行っています。これにより、情報の明確化と一元化が可能となると同時に、有事の際には迅速かつ柔軟な対応ができる体制を整えています。

<訓練中>フロア内の避難誘導の様子

<屋外避難後>参加者の様子
根本当社では、防災朝礼や災害ポケットマニュアルの活用など、日々の防災意識の向上に取り組みながら、防災対策の基本として訓練を重視しています。施設のハード面の管理も日々徹底していますが、最終的にはソフト面、つまり「人の対応力」が重要だと考えています。そのため、年に2回、大規模な防災訓練を全館挙げて実施し、お取引先の従業員も含めて全員参加で取り組んでいます。
特徴的な取り組みとしては、事前に消防署へ訓練の日程、内容を事前に協議したうえで、立ち会いを依頼していることです。準備段階から現場をチェックしてもらい、訓練当日は各フロアのスコアリングを行っていただきます。訓練後には、各フロアの責任者や評価担当者、消防署の方々が一堂に会し、訓練の振り返りを実施し、良かった点や改善点を全員で共有。専門的なアドバイスをいただき、次回の訓練に活かすサイクルを確立しています。
昨年は、仙台の国際化等に関する観点から、東北大学と「多様性豊かで魅力的な国際都市仙台の実現」を目指して包括連携協定を締結しました。その一環として、「外国人のお客様に対して有事の際に適切な対応ができるか」という課題に向き合うため、東北大学の留学生にも訓練に参加いただきました。外国人視点での防災対応を検証し、有事に備えるための課題を見つける機会となっています。
平常時から横のつながりを築いていきたい
今後、お客様や地域の安全・安心をさらに高めるために、取り組んでいきたいことはございますか?
松井ビル内での訓練は毎年実施しており、テナントの皆さんとの関係もすでに構築できています。そのため、日常的な防災対策については特に心配していません。ただし、大規模な災害が発生した場合、ビル内だけで対応を完結できるわけではなく、地域全体で協力し合うことが不可欠だと考えています。
その一環として、現在、「一番町」にある仙台トラストタワーに支店を構える当社と、道路を挟んだ「五橋」にいらっしゃる河北新報社さんと連携し、仙台トラストタワーテナント同士の交流を深める活動「ICHIGOプロジェクト」を進めています。活動を進める中で河北新報社さんから「ビルには80社近くの企業が入っているものの、外部からはどんな企業があり、どのような活動をしているのか見えにくい」との声がありました。確かに、管理会社としてテナントとは一対一の関係を築いていますが、テナント間の横のつながりは十分とはいえません。そこで、ビル内に町内会のような組織をつくることを考え、月に一度、防災に限らず「今回はこのようなイベントを開催するので、自由にご参加ください」とお声がけしています。
例えば、4階にあるせんだい総合健診クリニックの協力で健康セミナーを開催し、テナントの皆さんに自由に参加いただきました。こうしたイベントを通じて、普段接点のない方々とも顔を合わせ、会話を交わすことで、いざというときのスムーズな連携につながります。災害時、初対面の相手と「一緒に対応しましょう」となるよりも、日頃から顔を合わせている関係のほうが、迅速かつ円滑に協力しやすいはずです。
さらに、地域全体ともつながりを深めていきたいと考えています。これまでも地域の催しへの協賛はしていましたが、実際の関わりはほとんどありませんでした。そこで、トラストシティ広場前のスペースを活用し、地域の方々と一緒にイベントを開催できないかと働きかけています。
こうした取り組みを通じて、日頃から顔の見える関係を築き、災害時にはお互いに助け合える体制を整えていければと思っています。そして、ビル内外の垣根を越え、地域の皆さんとともに開かれた街づくりを目指していきたいと考えています。

根本取り組みたいことはふたつあります。まず、当社としてはこれまでも防災に対して全従業員で取り組んできました。ただ、自分たちの店舗内のみならず、安全安心なまちの実現のためには、ほかの施設や店舗と一緒に防災について考え、ともに取り組んでいくことが必要なのではないかと感じています。
例えばですが、今回商店街や海外の方々と一緒に訓練に取り組んだことで課題に気づき、改善した内容をほかの商業施設や店舗などへ共有していくなど、横のつながりを広げられたらと考えています。そうした取り組みを通じて、多くの方が防災に対する意識や対応力を向上させていくことで、「仙台は安全で安心な街だ」という評価につながるのではないかと思います。
もう一つ、仙台市のセミナーや講演に参加する中で、そして海外の方々へ向けた避難誘導を考える中で改めて考えさせられたのが、震災当時に発見した避難の課題です。当時、施設からお客様を安全に避難させることはできましたが、その後どこへ案内すればよいのかが分からず、最終的に避難所の小学校へお連れしてしまいました。しかし、避難所は主に地域住民の受入を想定したものであり、一時的に滞在する方々の受け入れ先ではなかったため、結果的に適切な対応ができなかったという反省があります。
現在も、施設から避難した後にお客様をどこへ誘導すべきかという明確な答えを持っていません。このような課題を解決するためには、行政と民間、さらには事業者同士の横のつながりを平時から強化し、有事の際でも適切な情報を共有していくことが必要だと考えています。その点で、松井様のお話とも共通する部分が多いと感じました。
今回のクロストークの感想を教えてください。

松井本日はありがとうございました。普段なかなか接点がない方とも、いざというときに連携するためには、日頃から顔見知りを増やしておくことが大切だと改めて感じました。緊急時にスムーズな対応ができるかどうかは、そうした関係づくりにかかっているのではないでしょうか。
今回のクロストークのような機会をもっと増やし、関係を広げていければと思います。今日は一対一の対話でしたが、今後はさらに枠を広げ、多くの方々とつながれる場をつくっていただけるとありがたいですね。
根本本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。松井様から日頃の取り組みについてお話を伺い、大変刺激を受けました。特にリモート対応については、すぐに取り入れていこうと思います。
当社では管理職は必ず出社するルールがありますが、時代に合わせた柔軟な働き方も必要ですよね。すでにリモート勤務体制は整っているので、防災訓練にも活用し、今年度から具体的なアクションとして取り組んでいきたいと考えています。
また、横の連携や地域コミュニティのつながりの重要性を改めて実感しました。防災の面でも、お互いに気軽に相談し、助け合える関係を築くことが大切です。松井様のお話を受けて、今後は地域の皆さんとの連携をさらに深め、日頃からのコミュニケーションを大切にしたいと思います。まずは、森トラストの皆様から顔なじみになるところからはじめ、河北さんとの連携チームにも、ぜひ参加させていただければと思います。
このクロストークをきっかけに、記事をご覧になった方が興味を持ち、新たなつながりが生まれていけば素晴らしいですね。改めて、本日はありがとうございました。


森トラスト株式会社
