
「人を動かす力」を模索する学生たちが、クロストークで可能性を広げる
東北福祉大学 Positive Action Students Supporters×CARAV@N

▲(左から)東北福祉大学 Positive Action Students Supporters/丹野 広夢さん、相良 豪壮さん、髙野 健太さん
CARAV@N/伊藤 匠人さん、山田 尊仁さん

東北福祉大学の学生ボランティアサークルPositive Action Students
Supporters(以下、PASS)は、「防災レンジャー」として防災・減災を楽しく学べるショーやワークショップを行っています。
一方、「CARAV@N」は、仙台市のコワーキングスペース「STUDIO
080」を運営するインターンが立ち上げた学生団体で、宮城の課題解決をテーマにイベントの企画や運営、ビーチクリーン活動などを行っています。
PASSの丹野広夢さん、相良豪壮さん、髙野健太さん、CARAV@Nの伊藤匠人さん、山田尊仁さんの5名でクロストークを行いました。
宮城の課題解決と防災教育。それぞれが伝えたい価値とは。
自己紹介と現在の活動に参加したきっかけや想いを教えてください。

CARAV@N伊藤私は岩手県花巻市出身で、東北学院大学に所属しています。地元では過疎化が進んでいたので、地域を盛り上げたいという思いがあったものの、1年生の時はバイトばかりしていました。何かしたいと思った時にCARAV@Nを見つけて「おもしろそう!」と思ったのがきっかけで、現在に至ります。
CARAV@N山田仙台市出身で、東北学院大学に所属しています。CARAV@Nには、所属している友人から社会人として役立つスキルが学べると聞き、自分の能力を磨きたいと思って入りました。

PASS相良私も伊藤さんと同じ岩手県の盛岡市出身です。友人と「何かボランティアをやってみたい」と話していて、大学の生涯学習ボランティア支援課に行ったところ、「防災レンジャーに興味ある?」と言われ、サークル説明会に行きました。とてもやさしそうな先輩たちがレンジャーをしているというギャップに惹かれたのがきっかけです。
PASS髙野私は秋田県大館市出身で、小中高と運動部に所属していたので、大学では何か別のことをしたいと思っていました。サークル説明会で、PASSは防災レンジャーの活動を通して防災・減災を子どもたちに教えていると聞き、自分が小さい頃に好きだったレンジャーになれるという点と、教育学部に所属しているので、すごくおもしろい方法で防災教育ができる点に魅力を感じて入りました。
PASS丹野私は宮城県の川崎町出身です。PASSに入ったきっかけは髙野くんと同じで、子どもの頃に好きだったヒーローになれることと、大好きな子どもたちと関われることに惹かれました。あと、東日本大震災の時は小学校低学年で何もできなかったので、防災・減災に携わりたいとの想いもありました。
東日本大震災で覚えていることや当時のことで家族から聞いていることはありますか?
PASS髙野秋田県大館市は震度4で、結構揺れました。当時は書道教室にいて、壁にかけている額縁などが落ちてきました。書道の先生が生徒を家まで送ってくれて、車を降りて歩こうとした瞬間に、目の前の電柱が45度くらい傾き地面がパックリと割れて、泣きながら飛び越えて帰った記憶があります。
PASS相良私は小学校で帰りの準備をしている時に地震が起きました。盛岡市は内陸なので津波被害はありませんでしたが、当時は小学校1年生だったので、みんなパニック状態でした。保護者が迎えに来た子から順次帰宅だったのですが、私は最後の方だったので不安でした。帰宅しても停電で、ロウソクの灯りを眺めながら、「この生活がずっと続くのかな」と思った記憶があります。

CARAV@N伊藤私も小学校で、地震発生時は机の下に避難しました。かなり揺れましたが、以前から地震はよく起きていたので、大したことないという気持ちでいました。でも、父と母はすぐには帰宅できず、祖母と自宅でラジオを聞いていたら怖い内容ばかりで不安な気持ちが高まってきました。記憶はありませんが、親が帰って来た際、すぐに駆け寄って大泣きしたそうです。
CARAV@N山田校庭に避難した際に、低学年の子たちがすごく泣いていたのを覚えています。自宅は家具類の転倒や落下で入られる状態ではなかったため、2日くらい車中泊をしました。仙台市内では消防車と救急車のサイレンが鳴り止まない状況だったのと、父の職業上、3日くらい会えなかったこともあり、とても不安でした。
PASS丹野川崎町は山に囲まれているので、大きな岩が転がり落ちて道を塞いでいる状態でしたし、帰宅しても家の中はグチャグチャで水も電気も止まっていて、怖かったですね。ただそれ以上に、何もできなかったという想いが強く残っています。両親は「元気でいてくれたらそれでいい」と言ってくれましたが、「何か自分にできることはないのか、でも何もできない」という、もどかしい気持ちがずっとありました。
みなさんの活動の内容と特徴を教えてください。
CARAV@N伊藤CARAV@Nは、大きく分けると4つの活動をしています。ビーチクリーン活動「White Beach」。宮城県内企業の経営者情報や就活情報など学生がほしいリアルな情報を発信するWEBコンテンツ「みやぎ企業ナビ」の企画・運営。宮城県内の大学生を集めて交流する「学生交流会」、地域や企業の課題に応える「イベントの企画・運営」です。


「White Beach」は、コワーキングスペース「STUDIO080」でタイヤを扱う事業をしている会員様からの一つの相談がきっかけです。その相談は「震災の津波で流されたコンテナが腐食し、中に入っていたタイヤが浜に上がっている」という内容で、我々学生の力で何とかしたいと思い「White Beach」が始まりました。最初は学生だけの活動でしたが、今では仙台市や企業と共催するなど活動が広がっています。
ほかにも様々な活動をしていますが、「宮城の課題解決」がどの活動も共通のテーマです。現在は学生インターンが13名、OB/OGを含めると17名で活動をしています。
PASS相良私たちは「防災教育の入り口」をテーマに活動しています。当時のメンバーは、1年生と4年生しかおらず、先輩が卒業すると同時に、私たち1年生だけになったため、新入生を集めるためにもテーマを掲げようと話し合い、気に入っていたこの言葉に決めました。このテーマは、1年生の時に初めて参加した親子イベントで「防災教育の入り口としていい活動だと思います」という言葉をいただいたことがきっかけです。
当時は7人だけでしたが、現在は45人までメンバーが増えました。


防災レンジャーショーの対象は主に幼児から小学校低学年で、レンジャーが「防災は小さいうちから始められるよ」と伝えることで、子どもたちが学ぶハードルを下げることがねらいです。防災の入り口として、やさしい言葉を使いながら、防災をしっかり教えることを目指しています。
参加型の防災クイズを取り入れ、クイズに正解するとレンジャーに力が集まり敵を倒すストーリーで、主体的に学べるようにしています。ショー以外にも、東北福祉大学の教材「防災すごろく」や減災運動「さんあい体操」などを組み合わせ、様々な形で提供しています。
活動をしている中で、大切にしていること・心がけていることを教えてください。

PASS丹野小さいお子さんを相手にすることが多いので、子どもの視点で考えるようにしています。ワークショップでは視線を合わせたり、分かりやすい言葉で「こうやってみようね」と伝えてみたりすることを常に心がけています。
PASS相良私は最近までPASSの代表だったので、依頼者である大人の方と接することが多くありました。イベント当日の動きはもちろん、依頼者の要望に沿ったワークショップの組み立てなど、臨機応変に対応することを心がけていました。

PASS髙野私はレンジャーショーの脚本を書いていて、イベントの規模に合わせて内容を調整しています。親御さんも付き添うだけではなく一緒に楽しめるようするため、見ていて学びを得られるように脚本を工夫しています。例えば、台風など自然災害をモチーフにした敵を登場させ、自然災害の脅威を伝えると同時に、私たちは自然の恩恵も受けていることを描くことで、怖がるだけではなく、自然とどう向き合い、共存していくべきかを考えさせる内容です。
CARAV@N伊藤CARAV@Nのモットーは、宮城の若者が地域や企業と手を取り合い、宮城を盛り上げるソーシャルグッドな活動を行うことです。そのためには、企業はもちろん、イベントの参加者のニーズを満たし、信頼される行動を心がけることが大切だと考えています。
また「White Beach」では、ビーチクリーンの際に、参加者にストーリーを伝えるようにしています。例えば、浜に落ちているパイプ「まめ管」は牡蠣養殖の際に落ちたものだといった背景を共有し、なぜそのゴミがあるのかを考えてもらうことで活動に意味を持たせています。こうしたストーリーを通じて、全く関係のない人々をつなげることも私たちの役割だと考え、活動にプラスの価値を与えることを意識しています。

CARAV@N山田参加者の方と意義のある時間を共有することを大切にしています。「White Beach」のボランティアは事前申込制ですが、当日にサーファーの方々が「一緒に参加してもいいですか?」と声をかけてくれて、人の行動に影響を与えられたことがうれしかったのと、自分も誰かが活動していたら「手伝いますか?」と言える人間になりたいと思いました。
互いを知ることで、共創の可能性が広がる
お互いの活動内容を知って、聞いてみたい事質問はありますか?また、自分たちの今後の活動に活かせる点もあれば教えてください。

CARAV@N伊藤45人もメンバーがいて、まとめるのは大変ではないですか?
PASS相良よく言われます。以前、PASSの代表をしていた時に後輩に「カリスマ性がない」と言われて(笑)。副代表の髙野くんの言葉には影響力があるので、全員に対して何か発信する時は髙野くんに任せて、一人ひとりの細かい声がけは私が担当することで、お互いの良さを生かしながらうまく棲み分けしています。
PASS髙野私は熱意を伝えるのは得意なのですが、本質というか、活動を通して何をしてほしいのか、それを踏まえて何を学んでほしいかを伝えるのが苦手です。一方で、相良くんはその細かい部分について「言いたいのはコレだよ」と的確にフォローしてくれるなど、一人ひとりに寄り添えているなと感じるので、信頼していますね。
CARAV@N伊藤いいチームですね。CARAV@Nは、企画部、広報部、営業部に分かれていて、自分は企画部のリーダーなのですが、実際は副リーダーが現場を回してくれています(笑)。副リーダーがメンバーに強く言ってしまう時は、自分がうまくバランスを取るといいますか、「調和できるところがいい」と言ってもらえるので、PASSさんと似ているなと思いました。
PASS相良深沼海岸で、別の団体さんのビーチクリーン活動に参加した時に、先ほど話していた「まめ管」を集める専用のゴミ箱がありました。結構カラフルだったのを思い出して、「White Beach」で回収したまめ管や大きなごみを防災レンジャーの武器などに活用できないかなと思いました。また、PASSも外部の団体さんとのつながりが多いので、CARAV@Nさんと他の団体さんとのつながり方を参考にさせてもらいます。

PASS丹野「White Beach」では、毎回どれくらいゴミを回収しているのですか?
CARAV@N伊藤大きいゴミ袋で、毎回10個、多い時は20個くらいですね。人の腕の太さの2倍ほどのロープなんかも出てきます。
PASS丹野確かにレンジャーの武器に使えそうですね。防災に環境の要素を足したテーマで、沿岸部でショーを開催したらいいかもしれません。
CARAV@N山田PASSさんは防災教育でありながら、すごくエンタメ性があるなと感じました。自分たちもイベントでステージダンスをする機会があるので、参考にしたいと思いました。
CARAV@N伊藤PASSさんは防災レンジャーというコンテンツがしっかりあって、こだわりの脚本や「防災すごろく」などが武器となり、たくさんの場所で披露できて、かつ評価されています。それってすごいことですよね。私たちも、ステージダンスなどをレベルアップさせ、「CARAV@Nといえばコレ!」という武器を確立したいので、ぜひご指導をお願いしたいです。
PASS髙野逆にといいますか、エンタメに頼りすぎていることに悩んでいます。ショーの後に、子どもたちが握手などを求めてくれますが、レンジャーというコンテンツを見に来ただけ、敵を倒すためだけにクイズを消化しているだけかもしれないと思う時があります。CARAV@Nさんが目を引くものに頼らず、人を惹きつけるイベントを開催していることに学ぶべき点があり、ぜひコラボしたいと考えています。一人ひとりが魅力的な人間として成長するために、CARAV@Nさんの活動をもっと見てみたいです。
今回のクロストークの感想をお願いします。

CARAV@N伊藤PASSさんとは昨年「深沼うみのひろば」でご一緒させていただき、存在は知っていましたが、マスクを取った素顔やどんな方たちなのかは分かりませんでした。話を聞いて、一緒にできることが多いと感じ、同じ学生として、コミュニティを広げるために一緒に活動できたらと思います。
PASS丹野私たちと活動内容は違いますが、防災・減災などの方向性は一致している部分があると思うので、同志として高め合いながら何かコラボするなど、互いにがんばっていけたらと思います。
PASS相良私はPASS以外にも7団体に所属していますが、人と人とのつながりはあっても、団体間のつながりはなく、PASSも含めて自分のコミュニティが狭いことに気づきました。PASSは大学の枠を超えた関わりができるサークルなので、この機会に一緒に活動し、コミュニティを広げていきたいです。個人としてもCARAV@Nさんの活動に参加してみたいです。
CARAV@N山田防災教育なのにエンタメ性があって、目的を持って行動しているPASSさんはすごいですし、私も一緒に何かできたらと思いました。ありがとうございました。
PASS髙野話を聞きながら、PASSは防災を教えているものの、その概念が狭いと反省しました。例えば、防災といえばローリングストックなど、「方法」だけにこだわってしまっているな、と。CARAV@Nさんの「White Beach」は、一見よくあるビーチクリーン活動に見えますが、ゴミがなぜここにあるのかを考えることで、防災・減災につながる活動だと思いました。コラボを通じて、CARAV@Nさんから学べることがあると感じました。
一人ひとりがレンジャーだから見てもらえるのではなく、「伝えたい」という気持ちがあるから防災の大切さを訴えているということを、レンジャーマスクなしの姿でも伝えられるようにしたいと思います。今日は楽しい時間をありがとうございました。


東北福祉大学 Positive Action Students Supporters(PASS)
ヒーローショーの活動のほか、イベントや児童館などで防災・減災を楽しく学べる活動を行い、大きな災害を経験していない世代へつないでいる。
