身近な「食」を通して防災・減災を考える機会を提供

Date fm×宮城学院女子大学 Food and Smile!

▲(左から)Date fm/名護ひと美さん
宮城学院女子大学/ Food and Smile! 沖田笙さん、齋藤萌香さん、柿崎瑞稀さん、阿部有希乃さん

モリノカレッジは、みんなのつながりの
輪を広げるプラットフォーム。
互いの価値観やアイデアがクロスしたら、
どのような効果が生まれるのでしょうか?
クロストークをヒントに、あなたの活動の
可能性をぜひ、広げてみてください。

Date fmで知られる株式会社エフエム仙台では、サバ・メシ(サバイバル飯・非常食)などを紹介する「Date fmサバ・メシ 防災ハンドブック」を毎年発行しています。一方、宮城学院女子大学の自主活動団体Food and Smile! (以下、FAS/ファス)では、災害食レシピを開発し啓発活動を行っています。Date fmサバ・メシ防災ハンドブックの2016年・2018年版には、FASのレシピが掲載されたこともあります。
それぞれ「災害食」に関する活動を行うDate fmの名護ひと美さんと、FASの柿崎瑞稀さん、阿部有希乃さん、齋藤萌香さん、沖田笙さんの4名でクロストークを行いました。

それぞれの防災・減災に関する想いとは?

はじめに、Date fmの活動内容を教えていただけますか?学生のみなさんは、震災時の体験やFASに加入した経緯も教えてください。

名護当社はFMラジオの高音質の特性を生かして音楽を流したり、情報を流したりはもちろん、地域に暮らすリスナーのみなさまにエンターテインメントと、何かしらの心の支えになれたらという想いで放送をしています。放送以外にも、音楽イベントなどの企画・開催も行っています。また、メディアとして地震や水害などの有事の際は、いざという時に正確な情報を伝えられるように、日々仕事に取り組んでいます。

今は営業部に所属していますが、以前はパーソナリティをしていて、東日本大震災の時は生放送を担当していました。緊急地震速報が流れ、そのまま地震特番に移行して情報をお伝えしていましたが、自分でもしっかりと知識を持ちたいと思うようになりました。10年越しではありますが、2021年の産休・育休取得を機に、防災士の資格を取得しました。現在、「Date fmサバ・メシ 防災ハンドブック(以下、サバ・メシブック)」の担当もしており、2023年版では防災士の観点からレシピを提供するなどの活動をしています。

柿崎4人全員が食品栄養学科に所属する3年生で、FASに所属しています。私たちは、東日本大震災の経験を生かした簡単で美味しい災害食レシピを開発し、災害食を通して防災意識を高めてもらえるよう活動しています。
私自身は岩手県宮古市出身で、東日本大震災時は小学2年生でした。地震発生後は校庭に避難し、保護者が迎えに来た児童から順次帰宅だったのですが、父は出張で東京に、母は小学校から30分以上離れた山奥で仕事をしていたため、なかなか迎えに来られませんでした。学校に残る児童が減っていく不安の中、夕飯に小さい牛乳と菓子パンをいただくことができました。私には13歳離れた弟がいますが、震災を知りません。身近な人ですら、震災を知らない人が増えていく中で、震災の経験を伝えていきたいと思いFASに加入しました。

阿部私は石巻市出身で、親の職場が海に近かったこともあり、大丈夫かなと心配しながら迎えを待っていました。幸いにも地震発生前に会社を出て無事だったため、一緒に家に帰ると家の中が荒れていて、避難所生活を経験しました。近所に農家さんが多く、お米などの食材はたくさんありましたが、調理のバリエーションが少ない経験をしたことから、災害食のバリエーションを増やし、災害時に少しでも楽しみがあるような生活を人々に送ってほしいと思いFASに入りました。

齋藤私は当時栃木県に住んでいたため、大きな被害はなかったのですが、宮城に祖母がいたため、電話が繋がらなくて不安でした。宮城に戻り、友人から震災の話を聞いた時に、もしまた災害が起きたらどう対応すればいいのか、防災の知識が全くないと気がつきました。FASに入って、自分のためにも、周りの人のためにも、災害食や防災の知識を深められたらと思って加入しました。

沖田私は県の内陸部でしたが、祖母が福島県の沿岸部に住んでいて、家自体は津波で流されずにすみましたが、周りの家は流出や倒壊の被害が大きかったです。ひいおばあちゃんが親戚におんぶされて山に逃げたことなど、身内から色々な話を聞いていたため、いつかボランティアなどができたらいいなと過ごしていました。大学進学の際に、FASの先輩方の活動を知り、憧れて入りました。

身近な食を通じて防災意識の向上に取り組む

Date fmで発行している「Date fmサバ・メシ 防災ハンドブック」の立ち上げの経緯とその特徴を教えてください。

名護創刊は2011年10月、まさに東日本大震災が発生した年でした。実は、震災前の2006年〜2010年まで「サバ・メシ*コンテスト」を毎年開催し、「45分以内にカセットコンロ1台でつくれるもの」を条件に、リスナーのみなさんからサバ・メシのレシピを募集。会場を用意して、実際に調理していただき、仙台市長などの審査員が賞を決めるコンテストを開催していました。身近な食を通して、災害時に必要な非常食を、よりおいしく、楽しく考えることで、防災に取り組む意識を高めることが目的です。
震災後、防災・減災についてもしっかりと取り組んだ上で、食の大切さを伝えていこうと、サバ・メシレシピの掲載はもとより、防災図記号・標識の説明や災害時の身の守り方などの防災・減災の情報を掲載した防災ハンドブックという形で発行し、毎年継続しています。

毎年テーマを変えていますが、どのような観点からテーマ設定をしていますか?

名護2022年はアウトドア(キャンプ)、2023年はカレー、今年は仙台味噌でした。テーマ選定には2つ理由があります。ひとつは、防災・減災について情報を掲載していますが、根本には食(サバ・メシ)からスタートしているため、食に関するテーマにすること。もうひとつは、宮城県内の小学5年生、約25,000人に配っているため、小学生にも興味を持ってもらえる内容にすることです。

これまで様々な方や団体のレシピを掲載していますが、提供いただいた方々の活動で参考にしていることや苦労したことなどを伺いたいです。

名護レシピを応募していただいた方々は防災意識が高く、コンテストのために新しくレシピをつくるのではなく、普段から災害食を取り入れていて、それをコンテスト用にアレンジして応募してくださる方がほとんどです。普段の生活の延長で、ちょっとだけ意識して火を使わない調理や、ストックしている災害食を食事に取り入れることで、災害時に慌てずに対応できるということが勉強になりました。普段食べ慣れているものがあるだけで、ストレス軽減にもつながると思います。
苦労したことは、みなさんのレシピはメイン料理だけではなくデザートまで幅広く、どれも素晴らしいため、賞などのための選定が難しかったことですね。

FASの防災レシピ講座で、工夫していることや苦労したこと、印象に残ったことを教えてください。

柿崎講座では、ポリ袋でご飯を炊くなど、災害時でもつくることができるレシピを一緒につくって紹介するのですが、「周りの人に教えてあげたい」と言っていただけるのがうれしいです。少しでも防災意識を高めてもらえるきっかけになれたらと思っています。

阿部私は話すことが得意ではないため、伝えたいポイントはメモしたり、伝わるように練習したり、参加者の年齢によって言葉を変えるなど、工夫をしています。やはり「おいしい」と言っていただけるのが一番うれしいですね。

備えの大切さ、様々な人々に対する支援を改めて考えるきっかけに

能登半島地震では、ライフラインに大きな被害がありました。水を使わない工夫など、おすすめのアイデアを教えてください。また、能登半島地震で改めて気がついた点があれば教えてください。

名護みなさんご存知かもしれませんが、お皿にラップをすると洗いものがなくなります。調理に関しては、缶詰の利用が一番いいと思います。例えば、トマトの水煮缶であれば水分量が多いため、水を使わない、または少量ですみます。
能登半島地震で改めて気がついたのは、防災士の観点からお伝えすると、何よりも備えが大事と感じました。飲料水や缶詰はもとより、非常用トイレ、洗い流さないシャンプー、下着が汚れないライナーなど、備えておけば、気持ち的に少しだけでも余裕ができることが大きいと思います。また、元日だったため、実家や旅行先など日常とは違う場所で被災した方は、避難経路や避難所が分からなかったと思います。そういった場合の対策を考えないといけないと思いました。

齋藤FASの活動でも紹介しているのですが、牛乳パックを開き、まな板にする、キッチンバサミの使用、ポリ袋に入れて調理すると水を節約できます。能登半島地震で女性の生理用品を備蓄していなくて困ったという記事を見て、物資の支援として女性への配慮も必要なことを知りました。

沖田私からは、FASのおすすめのレシピを紹介します。ポリ袋に入れて揉むだけの「切り干し大根サラダ」です。通常、切り干し大根は水で戻しますが、袋に調味料を入れて揉むことで、水で戻さなくてもおいしく食べられます。水を使わず、よく噛み、サラダのため栄養面も補えます。能登半島地震で改めて気がついたのは、赤ちゃんのミルクや離乳食、嚥下が困難なお年寄りなど、そういった方の食事用のローリングストックも大事だと思いました。

「Date fmサバ・メシ 防災ハンドブック」には、「そだてようBOSAIの種」というコピーがありますが、Date fmではどういった防災の種を育てていますか?

名護当社としては、SDGs達成に向けた取り組みを推進すべく国連が世界の報道機関に対して協力を呼び掛けている「SDGsメディア・コンパクト」にJFN(ジャパンエフエムネットワーク)系列局として最初に加盟しました。この加盟を機に、2030年までに達成すべきSDGsの17の課題解決に向け、より積極的に取り組んでいます。
サバ・メシブックに関しては、先ほども話しましたが仙台市の小学5年生への配布、町内会やリスナーの方々などに無料で配布し、防災・減災や災害時に活用いただきたいと考えています。

番組としては、毎週日曜に放送している「SUNDAY MORNING WAVE」では、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授にご出演いただき、防災・減災に役立つ情報を発信しています。毎月第2日曜は「Hope for MIYAGI」で、被災地・宮城のラジオ局として、宮城の“今”を生きる人々の想いを届ける特別番組を継続し、防災の種を育てようとしています。

当社には、放送を通して多くのメールをいただきます。楽しかったこと、日頃の悩みなどをパーソナリティが答え、日頃からリスナーのみなさんとコミュニケーションをとることで、信頼関係をつくれるメディアだと思っています。何かあった時に信頼してもらえるよう、日々心がけています。

FASに加入する前後で、防災などの意識は変わりましたか?また、若者は防災・減災への関心度が高くないと言われることが多いですが、みなさんは災害食を通して、どのようなことを伝えていきたいですか?

柿崎震災を伝えたいという思いは変わらずありますが、FASでの活動を通して使命感が高まりました。私たちの活動は、同世代に伝える機会がほとんどありません。活動の普及はもちろん、一人暮らしの学生が多いので避難所マップ作成など、色々なものをつくって、大学で配ることから何か広げられたらいいのかなと思います。

阿部FASに入ってから、避難所の把握、災害時に使える情報や防災グッズに興味を持つようになりました。若者の防災に関しては、確かに防災の話はほとんどしませんが、豪雨予報の際、一人暮らしの友人に備えがあるか聞くと、一応缶詰はあると言っていたので、備える意識はあると思います。防災に関する体験の機会がないだけだと思うので、FASの活動も含めて同年代に体験する機会を設けられたら関心度は高まるのではと感じました。

みなさんの活動に関する広報(周知)の取組を伺いたいです。

名護日頃のラジオ放送はもちろんですが、SNSのフォロワー5.2万人(2024年3月時点)に発信し、そこからさらに広がってもらえたらと考えています。また、公開録音や音楽イベントなどで、リスナーのみなさんにサバ・メシブックを直接渡す機会を増やすことに力を入れています。ゲストであるアーティストさんの力を借りて防災の話を盛り込んでいただくなどの取組をしています。

齋藤FASでは料理教室の際、レシピ以外にローリングストックの方法や、災害時の便利グッズなどを記載したリーフレットを配っています。料理だけではなく、防災の知識も覚えていただけたらと思っています。

沖田FASでも頻繁ではありませんが、SNSで発信しています。活動紹介はもちろんですが、動画も制作しています。動画は、テロップや撮り方など見やすさを工夫し、普段料理をしない方でも分かりやすいようにしています。

伝える者同士が繋がることで広がる可能性

今回の感想をお願いします。

名護仕事柄、色々な方の話を聞く機会があり、みなさん信念を持って活動していらっしゃるので、それぞれが「繋がっていくこと」が必要だと思いました。それは簡単なようで難しいと思うので、繋げてくれる「存在」も必要です。今回、FASのみなさんの真剣な取組を伺い、他の方々と繋がることで、足し算ではなく掛け算のように取組が広がるのではと感じました。あと、クロストークが終わったら切り干し大根サラダのレシピを知りたいので教えてください!

柿崎FASでは災害食を通して防災を広める活動を、大学では管理栄養士の勉強をしています。就職活動が始まるので、防災の分野でも管理栄養士の学びを生かした仕事がないか調べてみたいと思いました。

阿部Date fmさんは、ラジオ放送だけではなく、様々な防災活動をしていらっしゃること、また災害時のラジオ局の役割などを初めて知ることができて、勉強になりました。災害時に持っていけるようラジオを準備して、みなさんにも聞いてもらえたらと思います。

齋藤名護さんの様々な防災に関する活動を伺い、今後のFASの活動や自分のためにも勉強になりました。今回、やはり若者に周知が足りないと感じたので、同世代に広められる活動に力を入れていけたらと思っています。

沖田今回のクロストークで、普段あまり話すことがない自分の気持ちや、なぜFASに入ったのかを改めて考えるきっかけになりました。インプットも大事ですが、その分アウトプットも大事で、色々な人と話すことで広めたり、自分でも勉強になったり、そういうことが大切だなと思いました。名護さんの防災士の観点からの話が興味深く、ぜひ講師としてFASの活動に出演いただけたらうれしいです。

名護防災に関する知識は、日々色々と変わってきているので、防災士の資格を取ったら終わりではなく、アップデートしていかなければなりません。私もアウトプットすることで勉強になることもあるので、ぜひ協力させてください!本日はありがとうございました。

Date fm

東北地方初の民放FMステーションとして1982年12月1日に開局し、2021年に40周年を迎えた。FMラジオ放送番組の企画・制作、イベントの企画・運営、防災・減災や食育に関する刊行物、環境保全活動など、様々な活動を行っている。

宮城学院女子大学 Food and Smile!

宮城学院女子大学・食品栄養学科の学生で構成された自主活動団体。東日本大震災の経験を生かした簡単で美味しい災害食レシピを開発し、料理教室を通じて防災意識を高めてもらえるよう活動している。