障がいの有無にかかわらず安心して過ごせる居場所づくりと災害への備え
Open Village ノキシタ×特定非営利活動法人アフタースクールぱるけ
▲(左から)株式会社AiNest /取締役 阿部 恵子さん 代表取締役社長 加藤 清也さん
認定特定非営利活動法人アフタースクールぱるけ/ぱるけ西中田管理者兼児童発達支援管理
責任者
高橋 清美さん 代表理事 谷津 尚美さん
「Open Village
ノキシタ(以下、ノキシタ)」は、交流スペース、保育園、障がい者サポートセンター、障がい者就労支援カフェの4つの事業所が集まる共生型複合施設で株式会社AiNest(以下、AiNest)が運営しています。
一方、「特定非営利活動法人アフタースクールぱるけ(以下、ぱるけ)」は、障がい児の余暇活動、及びその家族を支援する事業を展開しています。
AiNestの代表取締役社長の加藤清也さんと取締役の阿部恵子さん、ぱるけの代表理事の谷津尚美さんとぱるけ西中田管理者兼児童発達支援管理責任者の高橋清美さんの4名でクロストークを行いました。
障がい者やその家族、高齢者など、それぞれが抱える課題をどう解決するか模索
はじめに、皆さんのプロフィールを教えてください。
加藤ノキシタでは村長と呼ばれています。私はこれまで福祉や介護に関する業務経験は全くありませんでした。もともと公共コンサルタント事業や防災環境事業などを展開する国際航業株式会社(以下、国際航業)の技術士で、全国の道路設計や防災計画の策定などをしていました。
今年24歳になる息子に重度知的障がいがあり、親の立場として障がい者福祉に疑問や課題を感じていて、自分でやってみようとノキシタを立ち上げました。
阿部AiNestはノキシタ運営のために設立した会社で、もともと親会社である国際航業がノキシタのある宮城野区田子西地区のまちづくりに携わり、加藤は技術者として防災まちづくりに関わっていました。一方、私は国際航業でずっと管理系の業務に携わり、AiNestを立ち上げるにあたり、経営のサポートという形で携わることになりました。
私の役割としては、主に村長である加藤の通訳ですね(笑)。
弊社は、交流スペースの運営とノキシタ全体の統括を担当しています。ノキシタの他事業所の方々とはそれぞれバックボーンが違いますので、各々が考える常識も違うことがあります。特に加藤は技術畑の人間なので、間にクッションとなって「村長が言っているのはこういうことですよ」と伝える、つまり通訳するのが私の役割だと思っています。それは交流スペースのスタッフにも同様で、加藤の想いをつなげるのが私の業務になります。
谷津私は障がいのあるお子さんに携わりたいと思い、大学では福祉を学び、卒業後は特別支援学校などの講師をしていました。その後、青年海外協力隊に参加し、日本に戻ってからは、自分探しをしていました。その中で、障がいのあるお子さんたちの保護者から「放課後の居場所がない」とよく聞いていたことが私の心にずっと残っていたため、2001年に仙台市内の支援学校の協力を得て、放課後や長期休暇の過ごし方のアンケート調査を行ったところ、70%以上のお子さんが放課後は1人または家族と過ごしているという結果と共に「自宅の近くに友達や家族以外の人と安心して過ごせる場所が欲しい」という声がたくさん寄せられました。
当時はまだ、仙台市内に2か所しか障がい児の放課後ケア事業所がなかったため、2002年に任意団体として「ぱるけ」を立ち上げ、その後、NPO法人を取得し、現在は、放課後等デイサービスの事業所を3か所、障がいのあるお子さんから成人の方までを対象とした相談支援事業所1か所の運営をしています。
高橋私は前職が保育士と幼稚園教諭で、保育現場で障がいがあるお子さんとの関わりがありました。その中で、もっと障がい者福祉や介護に関して勉強をしたいと思い、ちょうどぱるけがNPO法人となる時に入職しました。
現在、中高生をメインに「ぱるけ中西田」の管理者兼児童発達支援管理責任者として、障がいのあるお子さんの放課後等の支援をしています。
それぞれの活動の内容と特徴を教えてください。
加藤息子は2000年生まれで、ぱるけさんのような放課後等デイサービス支援も含め、様々な支援を受けてきました。ところが、高校を卒業した瞬間にそういった支援がほとんどなくなってしまい、親の立場として障がい者福祉に疑問を感じました。
障がい者支援も高齢者福祉も、補助金や助成金に頼る事業が多いことが課題と考えています。少子高齢化でますます高齢者介護や社会保障にお金がかかる一方で、人口減少により行政の税収入は減っていきます。補助金の取り合いで誰かに支援が行き渡らなくなったり、増税で国民の負担が増えたりする可能性が高まるため、そもそもの仕組みを変えていかなければならないと思いました。
そこで、障がい者の居場所を確保しながら、高齢者を健康にする仕組みをつくりたいと考えるようになりました。交流によって障がい者は居場所ができ、高齢者は役割を持つことで健康寿命が延びて介護や医療にかかる社会保障費が削減できる。つまり、障がい者の課題と高齢者の課題を組み合わせて、マイナス×マイナスでプラスにしようという発想です。
補助金に頼らず、地域の障がい者や高齢者が自分の居場所と役割を持ち、交流できる場をつくること。その課題解決のひとつの手段としてノキシタを運営しています。
阿部交流スペースを利用する方を会員さんと呼んでいますが、会員さんは誰かと話したり、1人で読書をしたり、過ごし方は自由です。イベントを開催する時もありますが、自然発生的に生まれる交流を大事にしています。
モットーは、会員さん自身が自分でできることは、自分でやってもらうことです。もちろん、難しい場合はお手伝いをしますが、過度に何かをやってあげることはしないように徹底しています。
「ありがとう」という言葉は、言われた方の原動力になります。交流スペースでお茶を楽しんだ高齢の会員さんの食器をスタッフが片づけるのは簡単ですが、そうすると会員さんが「ありがとう」と言われる機会を奪ってしまいます。会員さんが片づけてくださったら、スタッフが「元に戻してくれてありがとう」と言うことで、会員さんが「ありがとう」と言ってもらえる機会を奪わないようにしています。
谷津ぱるけのミッションは、障がいがあっても地域の一員として安心して生活ができる社会をつくることです。そのためのひとつの手段として、放課後等デイサービスや相談支援事務所の活動をしています。これらは公的なサービスのため、できることには限りがあります。NPO法人として何かできないかと考え、様々な自主事業も展開しています。
ぱるけの卒業生を対象に余暇活動を提供する「あみすた」も自主事業のひとつです。村長さんがおっしゃるように、成人になると仲間と過ごす交流の場が極端に少なくなってしまうため、仕事や家庭以外の第3の場を持つことは、豊かな生活を送る上で大切です。食事会やカラオケなどを楽しみ、近況を報告したり次に集まるまで頑張ろうね、という同窓会的役割を担っています。
高橋障がいのあるご本人はもちろん、そのご家族の支援にも力を入れているのがぱるけの特徴です。特に障がいのある子のきょうだいは、家族の中で後回しにされてしまったり、将来的にも守ってほしいと言われてしまったり、悩みや不安を多く抱えています。ぱるけを利用しているきょうだいの支援として「あみーごクラブ」を提供しています。
ご家族も含めてどうサポートしていくか、将来のために何ができるのか、課題解決のために支援の幅を広げられないかを日々模索しています。
誰もが自分らしくいられる環境づくり
活動をしている中で、大切にしていること・心掛けていることを教えてください。
加藤「長期的に見たときに本当にそれでいいのか」を常に考えるようにしています。
これまで身体を支えられながらノキシタに来ていた方が、障がい者をサポートして笑顔を見ることがうれしくて頑張った結果、杖をついてひとりで歩けるようになり、さらには杖を忘れて帰るまでになりました。
ノキシタにいる障がい者は重度の知的障がいがありますが、スポーツジムのインストラクターのような効果を果たしていると感じています。こうした役割に気づくことで、これまでの障がい者の仕事はこうあるべきという既成概念が覆るのではと考えています。
共生社会と言われる現代ですが、地域と障がい者の関わりが希薄な地域がほとんどです。知的障がい者をよく知らないと、怖いと思うのは普通だと思います。知る機会を増やすことで、身近にいることが当たり前と理解することが大切だと感じています。
とはいえ、現在の補助金制度では、「障がい者のためにこれが必要」という部分最適がほとんどのため、高齢者などと組み合わせた複合的な課題解決に関しては適用外となってしまいます。そのため、ノキシタでは企業の立場で中長期的な視点を持ち、複合的にどう考えていくかを心がけています。
長くなってしまいました。阿部に通訳をお願いします(笑)。
阿部ノキシタでは設立当初、障がい者の力で高齢者を元気にしていくイメージでしたが、間もなして、「子育てママの孤立問題」を会員さんから聞き、子育てママ向けのイベントを行うようにしたところ、子育てママさんが多く利用してくださるようになりました。
その中で、ママさんが保育園の入園準備物での縫い物が苦手で困ったという雑談をしていたら、高齢者さんが「縫い物が得意だから」と手伝ってくれました。どなたでもノキシタを使いやすいようにしておくことで、自然な交流が生まれるようにすることを心がけています。
谷津心がけていることは、ぱるけに通う子どもたちもご家族もきょうだいも、職員も含め、一人ひとりを大切にしたいと思っています。
震災後に教えてもらった「受援力」という言葉があります。困ったときに助けを求めたり、助けを受けたりする心構えやスキルのことですが、自分自身、震災の経験を振り返った時にハッとした言葉でした。地域の中で安心して暮らしていくために、困った時は困ったと言っていいですし、手伝ってくださいと言ってもいい、ということを子どもたちに伝えています。
高橋子どもたちが「生活力」をつけられるように支援することを大切にしています。できることは自分でできるようにならないと、何もできないまま大人になってしまいます。できることを促して見守り、無理な手助けをしないことをスタッフも含めて心がけています。
お互いの活動で共通する点もあったかと思いますが、共感したことやどういう点が今後の活動に活かせると感じましたか?
加藤私は中長期的な活動にこだわっていますが、そうは言っても短期的なことも絶対必要ですよね。今を乗り越えないと、先のことばかりやっていたら生きていけません。そういった意味で、ぱるけさんの放課後等デイサービスは、親の立場でも、利用者本人の立場でもすごく助かりますし、想いに共感しました。
一方で、先ほどから話題に上がっている高校を卒業した後の課題ですね。多様な方と交流できる第3の場をぱるけさんと一緒に何かできたらおもしろいと思いました。
阿部受援力の話を聞いて思い出したのですが、ノキシタの立ち上げ時のスタッフに、支援学校の元教員がいました。彼女は支援学校で「世の中は厳しいから、そんな調子ではダメだよ、そんな甘えたこと言っていられないのよ」と言って教育をしてきたそうです。しかし、ノキシタで社会は助けてくれる人も多くいることを知り、社会に出ても助けてもらっていいということを教えられるように、支援学校の教員に戻りました。「助けてください」と言えるような受援力は、本当に必要だと思いましたね。
谷津ノキシタさんの補助金に頼らない運営は、私も大事だと思います。ぱるけが行っている放課後等デイサービスでは、管理栄養士のスタッフを中心に食育に取り組んでいるため、これまで培ったノウハウを活かし、今年度から月1回程度ですがこども食堂を始めました。乳幼児から高齢者まで、障がいのあるお子さんやきょうだい、その家族も訪れやすい色々な方が集える居場所をつくりたいと思っていて、ノキシタさんと目指すところは一緒かなと感じています。持続可能な事業にしていくために何ができるのかを考え、模索しています。
高橋子ども食堂を開設するにあたり、ノキシタさんを見学させていただきました。村長さんの想いや会員さんの笑顔が印象的で、自然と人が集まるノキシタさんは、私たちの目指すところと共通していると感じました。
事業を続ける中で大切なのは、世の中の形や世代が変わっていく中で、いいところを残しながら、目指すところをブレずにどうアップデートしていけるかという点です。本日伺った話を持ち帰り、事業に活かしていけたらと思います。
災害時において、現在課題を感じていることを教えてください。
加藤災害時、誰しも自分が生きることに精一杯で、人にかまってられないのが現実だと思います。特に、知的障がいのある方のニーズを吸い上げるのは平常時だって並大抵のことでありません。
やはり平常時からダイバーシティ&インクルージョンを当たり前にしていく環境をつくりたいと考えています。ノキシタの中庭で保育園の子どもたちが三輪車で遊んでいる姿を、知的障がいを持つ24歳の息子ヒロムが眺めていました。そうしたら、2歳の子が「ヒロムくんも一緒に参加したいんだよ、呼んで」と先生に言い、2歳児が24歳のヒロムに三輪車の乗り方を一生懸命教えていました。子どもなりに、体が大きいけれど話ができない人に、何をしてあげたらいいのか自然と学びとっていると感じました。こういったことを続けていくことで、自然に災害時に活きてくると思います。
谷津私も普段の生活の中で受援力や、地域の理解者をどう増やしていくかが、防災・減災につながると思っています。
東日本大震災後に、自分が暮らす地域とのつながりの大切さを実感し、障がいのあるお子さんのお母さん方と「ちょこっと・ねっと」という冊子と紙芝居を作成して出前講座を行っています。冊子は両面表紙になっていて、片面が障がいのある方とそのご家族向けで、困った時は助けてと言うことで自分と家族を守ることにつながると伝えています。もう片面は、平常時からあなたのできることで周りに困っている人がいたら、ちょこっとお手伝いしてもらえませんか?という内容です。
今回のクロストークでの感想を教えてください。
加藤5年前の立ち上げ当初は、何をしているのか全く分からないという声が圧倒的に多かったです。失敗もしましたが、新たな気づきも得て、5年経って色々な形が見えるようになり、共感いただける方も増えました。
とはいえ、我々の施設だけでは人数も含めて限界がありますので、こう言った事業が増えて関心を持ってくれる方も増えてほしいですね。
阿部私も今回のクロストークを機に多くの方に知っていただきたいですね。最近、学校さんからお声がけいただくことが増えました。小学校から大学まで様々で、地域共生社会を学ばせたいということで、体験学習や実習を行っています。特に若い世代に伝えていきたいですね。
谷津本日はありがとうございました。ノキシタさんの話を聴きながら、新たな視点の気づきも得られて、勉強になりました。
7月末に能登半島で、障がいのあるお子さんやそのきょうだい、家族も含めたサポートもできればと思い被災者支援のボランティアを行いました。東日本大震災の経験が活かされていること、あの時の自分の体験と重なることとどちらもありました。最近は地震だけでなく風水害など各地で災害が起きています。私たちの経験を我が事として捉えてもらえるよう、仙台市だけではなくこれからも多くの方に伝えていきたいと改めて思いました。
高橋ぱるけで震災の記憶がない子や震災後に生まれた子が多くなりました。スタッフも含めて、震災の経験を伝え続けていかなければならないですし、風化させないことが大事だと思いました。本日はありがとうございました。
Open Village ノキシタ
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